「ええ、ただ、一人、弟子が残っておりますし、……どちらも死んだことですので、それ以上は……。実際、動機と考えられるものも、果たして表に出していいものかどうかわからない、不可解なものでありますからね。怪談めいた噂を流すのは気が引けますが、そういって片付けた方が、お互いの為だと思うのですよ。……実際、私などは直接関わりあったのですが、そういうところもありましたしね」
メハルは、そういって少し目を伏せた。
「あと、死んだカディン卿の方ですが、まあ、あっちは相当あこぎなことをやっていたようで、あれは死ななければ貴族審理院に突き出されていましたね。……まあ、そちらは、貴族審理院の連中が調査を続けておりますので、おいおい、将軍の耳にも入るのではないかと」
「なるほど」
メハルは、深くうなずいた。
「ともあれ、街のものは、一通り落ち着きを取り戻しておりますし、それだけが救いではあります」
「そうか。すまぬな、呼び立てて。また、後日、少々つきあってもらうかもしれんが」
いえ、と、メハルは生真面目な様子で答える。
「私は、今でも将軍を慕うものでございます。何かありましたら、申し付けてください。それでは、失礼いたします」
メハルは、大仰なほど丁寧に礼をすると、そのままきびきびした動作で外に出て行った。
「配属がすっかり変わってるのに、まだ慕ってくれてるとはいい部下をもったなあ」
「それを貴様が適当に使おうとするから、元上官の私としては心配でならんのだ」
ジートリューは、きっとハダートをにらんだ。
「適当とはひどい言い方だな。俺は、アレに頼まれたから、調べていただけで」
「アレ……。そうか、そういえば、さっき、メハルの口から、三白眼のアホとかなんとか聞こえたが」
「ああ、まあ、そういうことだ。ちょいと関わってたんだよねえ、アイツも」
ハダートが言うので、ジートリューはおおまかに事情を知ったらしい。
「まあ、ソレはともあれ、なにやら、因縁めいた話だな。……結局、剣に狂っての所業ということで片付けたという話だが……」
「まあ、そういう言い方しかできねえだろうしな。正直、理解できねえ蛮行さ。やった奴には、論理が通ってるのかも知れねえが。残った人間の為にも、剣で狂っちまったということにしといた方がいいんじゃないか。……そうでなければ、納得がつかねえというところだろうさ」
「そうなのか? 死んだ人間もいるというのに……ますます後味が悪いな」
「まあ、剣がなくなったというだけましだろうよ」
ハダートは、難しい顔をしているジートリューにそういい、軽くため息をつき、それにしても、とつぶやいた。
「怖いのは技術屋の執念だな。なんとなく身につまされるところはあるが」
「貴様は職人でもないくせに」
「いいや、策士策におぼれるっていうのもあるだろう。好奇心旺盛なのは、危険な証拠だって話だぜ」
ハダートはにやりとした。ジェアバード=ジートリューは、まるで本気にとらず、話を変える。
「しかし、そのジャッキールとかいう男、剣を折ったとかいったな。何故だ? 本人を切ってしまえばそれで終わりだろうが。何故わざわざ」
そういわれて、ハダートは、少し姿勢を変えた。
「ああ、アレは、多分。あいつも、あの剣が恐かったんだろうよ。というより、あいつの場合は、あの剣が恐いというより、あの剣を二人目の人間が使うことが恐かったんだろ」
「何故だ」
「一人目がやったということは、その後の人間も、同じことをやる可能性があるからさ」
ハダートは、感慨を抱いているのかいないのか、軽い口調でそんなことを言う。
「あの男は、かなりイカレちまってるが、変なところで俺たちよりまともにできてるらしいからな。奴はカタギが不幸になるのが、堪えられねえんだろ。だから、剣を、徹底的に砕いておく必要があったのさ。……奴風に言えば、多分、剣の魂ごと砕く必要が、といった方がいいんじゃないかね。そうじゃなければ、わざわざ、戦いの最中に折るなんて、七面倒なことはしねえだろう。多分、儀式みたいなもんさ」
「その男は、そんなことを信じているのか?」
馬鹿馬鹿しい、といいたげな口調で、ジートリューはいうが、ハダートは首を振った。
「さあ、俺が知ってるあいつは、それほど夢見がちな人間じゃなかったぜ。……ただ、あの剣は、確かにおかしな剣だったんだろう。なにせ、「アレ」ですら、ちょっと引いてたところがあったからな」
「ほう。なるほどな」
そういわれて、ジートリューは、思い出したように聞いた。
「そういえば、で、アレは何を言っているんだ」
「別に。アレからちょっとあってあれこれ聞いただけよ。まあ、相変わらずへらへらしてたようだがな。あれこれあったが、まあ、街に出てる間は、落ち着いているみてえだし」
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