「リ、リーフィちゃん、なんかすごい!」
シャーは純粋に尊敬のまなざしを彼女に送る。
「というか、色々聞き出すの、うまいね……」
「だって、このくらい役に立たないと、あなたと組んでいる意味が無いでしょう?」
リーフィはくすりと笑った。
「あなたと釣り合うぐらいに、助けにならないと、あなたに対して申し訳ないわ」
「ええ、そんな、釣り合うなんて。リーフィちゃんは、いるだけで十分なのに」
シャーは、リーフィのそんな言葉に、感激してしまって思わずでれっとしてしまう。リーフィにこんなことを言わせる男は、多分、世界で自分しかいない。そう思うと、シャーは、いっそう心の中が無駄に春色に染まるのである。
「でも、探している、っていうことは、カディンは、その剣をもっていないのじゃないかしら」
「そうだね。そのセンが強い」
リーフィに突然きかれて、シャーは表情を思わず正す。
「あのカディンてえ奴は、ちょっと剣を探しすぎてるからね。入ってくる奴、入ってくる奴の剣を見てる奴なんてなかなかいやしないさ。収集家のサガってのもあるかもしんないけど、ちょっとやりすぎだよ。……何か事情がないと、あそこまでは、とてもね」
「そうね。私もそう思うわ」
「多分、あの男は、今、まさに剣を探している最中なんだ。だから、あんな血眼で人の剣を眺め回しているんだろ。……てことは、カディンの奴は、この事件に関わってないのかな」
しかし、そう判断してしまうにも、シャーとしても自信はない。例の通り魔がカディンでないとしても、ジャッキールをこの前襲っていたのは、間違いなくカディンの手先の仕業だろう。そう考えると、やはり、彼も動いてはいるのである。
(まだまだ、絞るには情報が足りない)
シャーは、顎をなでやり、一度考えを切った。そして、リーフィのほうをあらためてみて、微笑みかける。
「ああ、でも、今日はお疲れ様。リーフィちゃんも疲れたでしょ?」
「まあ、それはね」
リーフィは素直に認めたが、すぐにシャーの方をうかがった。
「あなたほどではないと思うわ。なんだか、妙な緊張感漂っていたわよ。にらみあいでもあったの?」
「ま、まぁねえ。よ、横に役人のオッサンもいたしで」
そういいながら、シャーはほんの少し苦い気持ちになった。
(……その理由が、この微妙な男心だってことはわかってくれてなさそうだよね)
いや、そんなことは最初から予想できていたわけだが。リーフィは、妙に鋭いくせに、見るところは見てくれない娘なのである。考えてもむなしくなるだけなので、シャーは、ため息をついて考えるのをやめた。
と、ふと、ぼんやりと見ていた目の前の闇に、何か動いているのが見えた。どうも、それは人影のようである。背は、シャーほどは高くない。なにかから逃げるように急いでいるようだった。
「……なんだ?」
思わず、リーフィを背後にかばい、シャーは前に一歩出た。相手は、シャーに気付いていないのか、後ろを向きながらこちらに走ってくる。シャーは、相手に声をかけようと、少し前にでたが、そのとき、急に相手の速度が速くなった。
「うおっ!」
「いてっ!」
ドンと肩あたりをまともにぶつけて、シャーも相手も、その場に倒れ掛かる。思わずしりもちをついてしまったシャーは、立ち上がりながら土を払った。相手も同時に立ち上がる。シャーがなにやら口を開こうとしたが、相手のほうが早かった。
「アブねえなあ、前向いて歩けよ」
いや、悪いのは突っ込んできたそっちなのだが。さすがにむっとしたシャーだが、ここで喧嘩するのもよくない。適当に返事をして収めようとしたのだが、その相手の顔をみて、思わず声をあげた。
「てっ、てめえ、ネズミ男!」
「あー、なんでえ、お前かよ」
途端、不機嫌そうな顔になるシャーだが、ゼダのほうは相手が知っている人間としったせいか、少々ほっとしている様子である。 そして、そういう状況になればなればで、持ち前の口の悪さが頭をもたげるのがゼダなのだった。
今日のゼダは、珍しくあの派手な赤い上着を着ていない。どこかで落としてきたのか、肩にかかっていなかった。
「全く、こんな夜道をふらふら歩いているようじゃあ、テメエの不景気な顔の原因もしれるってとこだな」
「何だ! てめえだってふらふら道端歩いてるくせに!」
「あら、珍しいわね。この辺をあなたがまわるなんて」
シャーの態度で、リーフィは相手が誰だかわかったらしい。それもそうである。大体、普段気のいいシャーがこういう態度を取る相手はものすごく限られているのだし、おまけにネズミなどと彼が呼ばわるのは大方一人しかいないのである。
「まぁなあ。ちょいと用があったのはいいんだが、偶然、アブネエ黒服とでくわしてねえ」
「ああ、黒服だ?」
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