それが二つ目に繋がるんだよ、とゼダは笑って続けた。
「ハルミッドってジジイは、その道じゃあソコソコ有名な鍛冶屋でなあ、金持ちの好事家の中じゃあ、奴の剣を持っていることで自慢話ができるほどぐらいの奴ではあったのさ。だから、オレも名前をきいたことがある」
「へえ、そりゃいいご趣味だことで」
 シャーの口調は皮肉たっぷりだが、ゼダは平気そうにこたえた。
「そりゃあ残念。あいにくとオレの趣味じゃあねえんだよ。前に遊んでる時にな、そういう話をしている男がいたのを思い出してな。……どこかの貴族らしく、結構名前の知れた男らしいんだがよ。ソイツが、武器の収集家なんだよ、というよりは、珍しいもの好きというかねえ」
 む、とシャーはわずかに身を乗り出す。それをみやりつつ、ゼダは、目を細めた。
「珍しい剣の好きな男だってことよ。おまけに、下手に金と権力がありやがるもんだから、癖が悪くてな。欲しいものは力ずくでもてに入れる、らしい、ぜ」
 ゼダは妙なアクセントをつけながら言った。
「そりゃあ、女共の噂話だが、証拠はもみ消しているとかでよ……。でも、まんざらじゃあねえ話らしいんだよな」
「ちょっと待てよ。珍しいってんじゃ、テメエの剣だって……」
「ああ、だから何やら知った口きいてるんだろう。オレというよりザフだがなあ、一度、ちょっかいをかけられたことがあるんだよ。オレがカドゥサの息子だっていうのと、問題になるのを嫌ったザフが、自分の剣を渡しちまったんで大事にはならなかったんだが……」
 ゼダは、ちらりとシャーの左側に目をやった。そこには、例の東方渡りらしい刀がある。
「ヤロウは、珍しいというより綺麗な武器がお好みなんだとか。そういう意味では、ハルミッドのところにいったって可能性もある。だから、おめえさんの剣も十分危なさそうだからよ、一応忠告してやろうかな、と思ってきてたんだが、やっぱり、この一件とどうも関わりがあるみたいだな」
 ゼダは、そういってふっと笑った。
「奴の名前はカディンとかいったな。気をつけな」
 シャーは、顎に手をやり、何やら考え込んでいる様子だ。返事を返してこないシャーに、ゼダはからかうような口調で言った。
「ちゃんとお前を心配してやるという、オレの素晴らしく優しい心遣いだぜ。感謝しろよ、感謝を」
「なんだあ! そういうのは、おせっかいってんだよ!」
 予想通りに、彼らしくもない強気でくるシャーをみやりつつ、ゼダは面白そうに笑った。
「おいおい、仮面が剥がれてるぜ。まあ、ミイラ取りがミイラにならねえように気をつけんだなァ」
「へっ、剥がれてるのは自分のほうだろうが!」
 ゼダは、嘲笑一つでふらりと歩きかけたが、その背にシャーが思い出したように言った。
「そういえば、言い忘れた」
 シャーの声にゼダは振り返る。
「最後の男に心当たりがあるっていったろ。アレについて一応話してやるぜ」
「へえ、お前にしちゃあ、随分と親切じゃないか」
 にやりとするゼダに、シャーは少々皮肉っぽく言う。
「そりゃあそうだ。だって、知らずにつっかかって死なれたら、後味悪いからなあ」
「ああ、そう。ご心配痛み入るぜ」
 シャーが挑発しても、ゼダは最近ではあまり乗ってこない。むっとしながらも、シャーは、続けた。
「関わってるかどうかはわからねえが、黒服の長身で、あの手の剣を使う男には覚えがある。多分、……ジャッキールっていってな、アイツは強いぜ。多分、見かければ一発でわかる」
 シャーの目つきが少しだけまじめになった。
「単純な力だけで考えると、多分オレより上だな」
「へえ、そりゃ、オレも気をつけないとなあ」
 ゼダは、どこまで本気かわからない軽口を叩き、ふらりと歩き出す。そのまま彼が闇に消えていきそうになったとき、後を追ってきたのか、酒場からリーフィが飛び出してきた。
「あら。何か騒がしいとおもったら、あなただったのね」
 あらかじめ予想していたのか、リーフィは、ゼダをみてもそう驚かない。歩き出していたゼダは、急に笑顔を浮かべた。
「よォ、リーフィ。久しぶりだな」
「久しぶりね。やっぱり、出てきたのね、あなたも」
「まあァな」
 そういって、ふとゼダがリーフィに近寄ろうとしたとき、凄い勢いで、青い塊が目の前を横切った。
「だーッ! 悪い虫がつく! 寄るなネズ公!」
「はん、振られ続けて相変わらず思い切りの悪い野郎だことで」
「う、うるさーい!」
 何やら感情的なシャーを見やり、ゼダは、ハッと笑った。
「まあいいさ。また、顔見せにくるだろうが、よろしくな」
「よろしくじゃねえ」
「お前じゃなくリーフィにいったんだよ」
 何やらえらい剣幕のシャーを軽く流し、ゼダはふらりと身を翻す。シャーは、うぐぐと唇を噛んだ。
「シャー、あなたもゼダも相変わらずね」


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