「うぐ…確かに予想外…」
「そうでしょう?」
「な、なんか、オレ、自信なくなってきたなあ。大丈夫かなあ」
相手が自分より少なくとも、もてそうなのをみて、シャーは急に弱気になる。
「シャー…」
「わ、わかってるってば。気後れしたりしませんてば」
シャーはため息を一つつき、リーフィに向けて少し笑んでみた。
「おい」
不意に後ろの方から声がした。
「何やってるんだ?」
振り返ると、ウェイアードの部屋から出てきたらしい男が二人いた。両方とも柄はあまりよくない。シャーは慌てて愛想笑いをすると、ひょこりと身をかがめて言った。
「あ、すみません。新入りなもので、お客様に呼ばれたお部屋が分からなくなりまして」
「へえ、新入りか? この娘もか?」
男の一人がリーフィに目をつけて、さっと手を取った。これはまずいとシャーは慌てて割ってはいる。
「す、すみません。この子、まだお店に出てないんですよ。入ったばかりで」
「そんなの金で何とかなるんだろ? いくらでも出してくださるぜ」
「よくありませんてば! そんな無体なことはよしてくださいよ。余興ならわたくしめがいくらでもばんばん…」
そこまで言ったとき、不意にどんと押されて、シャーはそのまま後ろに倒れかかる。
「シャー!」
慌ててリーフィはつかまれた手をふりほどくと、シャーの所に駆け寄った。
「大丈夫?」
「あ、大丈夫大丈夫」
シャーは半身を起こしながらそういい、そっとリーフィにささやいた。
「リーフィちゃん、どうもまずいみたい。はやく逃げて! 後はオレがごまかすから! 外で待っていてくれたら、後でオレが出ていくから…!」
「あ、ええ、わかったわ!」
リーフィはうなずくと、ぱっと足下に広がる裾をはねあげて、階段をさっと進み始めた。そのまま風のように降りていく。
「あっ、こら!」
「まま、待って下さい。まぁまぁ。今日の所はご勘弁を」
「お前、ここに仕えてるんだろ! 生意気なこといいやがって!」
シャーと男が押し問答をしていると、ふと部屋の方から一人の男が姿を現した。ちらりと横目でその姿をみて、シャーはぎくりとする。そこに立っているのは、例の美青年だ。
「何をしてるんだ? 騒々しいな」
彼は、後ろにもう一人仲間らしい男を連れていた。何となく目立たない感じの男で、騒ぎをややおろおろしながら見ているような感じであった。
「いや、ウェイアードさん、こいつが…」
(ウェイアード?)
シャーはそっと横目で、美青年を見やる。すらりとした鼻筋で、どこかの王族としても通じそうな顔つきだ。シャーも長身痩躯といえるが、シャーの場合は見かけをすらりとしているとは形容されない長身痩躯なわけだが、彼の場合は、普通に美称としての長身痩躯がつきそうだった。
女性的な柔和な顔つきで、女性と間違えられそうにも見えなくもないが、しかし、その瞳に宿る光は冷たく、そしてシャーにある種の警戒感を抱かせるようなものだった。
(こいつ…、……ただのぼんくらじゃねえ)
シャーはふと感づく。その目に宿る光は、シャーにも覚えのある光だった。シャー本人は、普段はそれをほとんどおさえ込んでいるし、彼の隠したものに気づく者はそれほどいない。だが、嫌なものでどれだけ隠れながら生活していても、嫌でも、彼は自分と似た匂いの者をかぎ分けてしまうのだった。
だから、はっきりとシャーにはわかったのである。目の前にいる伊達男は、ただの二枚目の坊やなどではない。かなりの腕を持つ戦士らしいということが。
「おい、芸人」
ウェイアードはやや横柄な口のきき方でそうシャーに言った。
「一体、どうして、女を逃がした?」
「い、いいええ、逃がしたわけではありませんですはい。あ、あとでちゃんとしかりつけておきますから、その…」
ウェイアードはきっとシャーの方を見る。それを見かねたのか、後ろにいた気の弱そうな青年が慌てて前の方に出てきた。
「ま、まあまあ、今日の所はこの辺にしましょうよ」
「なんだ、お前まで」
「まぁ、この人も困っているようですし、それにあの娘も恐がっていたみたいですから、ねえ。そこまでそんな乱暴することは――。あいたっ!」
ばしっとウェイアードにはたかれて、気弱な青年は床に投げ出されてしまった。ウェイアードは何も言わず、ふいっと顔を背ける。途端、周りにいた男達が、きっととシャーと青年の方を睨んだ。
「坊ちゃんの機嫌を損ねるんじゃねえ!」
「すみません」
思わず同時に青年と謝ってしまい、シャーは少しだけ苦笑いを浮かべた、が、そんな悠長な事をしている暇はなかった。謝り方が悪かったのか、それとも何か癪にさわることがあったのか、男達は急に血相を変えた。この表情は非常にまずい。シャーの本能が素早く危機を告げた。
(まずい。まさか、オレ、袋だたき決定?)
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