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リーフィのとある一日-2

   ※歩行者:シャー・ルギィズ 


 毎度の事ながら、昼下がりはうんざりするほど暑い。
 俺は、そういう日は出歩かないことにしているんだ。出歩くのは日が落ちてからにしているってことさ。でも、家でいたって暑いのはあんまり変わらないんだよねえ、悲しいことに。
 俺って男は諦めも早い。そういう日は、誰かいそうな酒場にいってちょっとうまいものでもたかるのが一番いい手なんだ。でも、大概昼間ってやっぱり誰もいないんだよねえ。世の中そううまくいかないってことだよな。
 俺はそういう時、世の中のキビシサって奴を感じてしまうわけだよ。
 砂漠の中の都は、昼は恐ろしく暑いが夜はまたひどく寒い。住むのにけして住みやすいっていうことはないけれど、それでも水が豊富にあるここは他のところに比べると天国なんだぜ。ああ、そうそう、天国天国。なにせ、いつでも水が飲めるし、ここんところずっと旱魃だってないしね。おまけに、気候変動ってやつも多少あって、一応季節があるんだから、まあ、恵まれている方だと思うんだよなあ。
 さて、茶店にいってみても、いつもの連中が見つからずに、俺は途方にくれてとりあえず街を歩くことにしたわけだ。俺には舎弟……っていいのかね、あいつら。とりあえず、俺を兄貴ともちあげてくれて、いつもご飯と酒を恵んで……じゃないな、みついでくれるかわいらしい野郎どもがいるのだが、たまにあいつらもつれない。最近特につれなくて、夜も俺を見かけると逃げる奴も多いんだ。懐具合がよくないんだろうけどさあ。
 それにしたって今日はついていない。つれないにしても、あいつら、ちょっと俺のことをないがしろにしすぎだと思う。俺なんか、いつも気を遣って盛り上げてやってるじゃないかよ。俺がいなければ、宴会の楽しさ三分の一以下、いや、百分の一以下ってもんだ。この男前の俺がだよ? 財布の具合で、冷たくするなんて、ひどいと思う。まあ、その辺がこういう生活するところの難しさっていうわけね。俺みたいな実質住所不定無職な男は、なかなか生きるのが大変なんだ。いや、住所不定っていうわけじゃないんだよ、俺。ちゃんと自分の家も借りてるし、あるけど、誰にも教えてないだけ。ま、その辺に色々事情があるんだけど、それにしたって貧乏なのに変わりない。薄汚いとかいろいろいわれるけど、仕方ないじゃない。身なりは一応キレイにしてるんだけど(女の子にもてないだろ)(ただですらもててないからな)、なんだか印象が薄汚いっていうかさあ。女の子たちから大概冷たくされているんだから、あいつ等ぐらい優しくしてくれたっていいじゃないか。
 そんなわけで、俺は唯一の癒しである、リーフィちゃんの酒場の方面に歩いていた。
 リーフィちゃんは、酒場で働く女の子で、こーゆー場末のきったない酒場にいるとは思えない美人さんだ。うん、すげえ美人なんだぜ。どう美人かっていわれると、……俺に表現力を求めないでほしいぜ。とにかく、美人っつったら美人なんだよ。
 黒髪がさらさらしててだなー、切れ長の目がきれいでねー、まあ、きれいな子なんだけど、表情がないというか、めったに表情を変えることがない人形のような外見の女の子だ。俺はかわいいと思うけど、それで愛想悪いとか、冷たいとかいうやつもいるけれど、ああみえてリーフィちゃんは、それなりに表情があるんだけどなあ。俺も親しくなるまではわからなかったけれど、見ていたらそっと表情を控えめに変えたりしている。多分、無愛想とか無表情とかいわれるの、本人も気にしていると思う。声も、あまり感情をあらわにしないんだけど、そっと囁くような声で気遣われたりしたら、ちょっといいじゃん、って感じなんだよね。
 ただ、リーフィちゃんも、ちょっと不思議なところがあって、天然ボケっていうか、なんだか不思議なところがある。そういうところは、こういうと失礼だけどちょっと面白い。でも、じっとこっちを見つめられてなんでもなかったりしたときは、男の俺としちゃどきっとしてしまうってわけさ。
 とある一件で、リーフィちゃんと仲良くなってから、俺は好んであの子と話に行くようになった。俺は、そりゃ、リーフィちゃん大好きなんだけど、リーフィちゃんは、俺ってどうなんだろう。相手をしてくれるぐらいだから嫌われてはいないんだろうけど、到底好きとかそういうんじゃないんだろうねえ。まあ、俺たちの間に恋愛沙汰を持ち込もうという自体、今じゃすっかり馬鹿馬鹿しいっていうか、そういうことなんだ。いても疲れないし、話していると楽しい相方って感じかな。俺とは違う情報も持っているしさ。
 とにかく、暑いったらありゃしねえ。俺は、建物の陰にかくれながら、そっと進むことにした。
 だから昼間は出るのいやなんだよねえ。俺が灼熱の道を仕方なく歩いているのは、あいつらが俺を避けているせいだ。今度であったら思いっきり搾取してやるぞ。
 そんなことを決意していたら、ちょうど俺の前から歩いてくる人影が見えた。
 珍しいね。こんな暑い昼間に。人影だって少ないっていうのにさあ。
 俺は目を凝らしてみた。そして、俺は思わず喜んじまったってわけさ。
 だって、前から歩いてくる人影は、こともあろうに、リーフィちゃんだったんだから。
 よかったよかった、探す手間が省けた。





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