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サギッタリウスの夜-32



 ぎしっ、と体が軋み、左胸の古傷が痛んで、シャーは、一瞬息を詰まらせた。
 が、まだ技は完全にかかっていなかった。ザハークは狙った技を完璧にかけるつもりしかないらしく、彼の力を持ってすれば、他の関節技やシャーの首を折ろうとすることもできただろうが、それをしなかった。しかし、じわじわと仕上げに入っており、大蛇のように彼を締め上げ始めている。技が完成すれば、一巻の終わりだ。
「俺は体が大きいのでな」
 と、ザハークが、力いっぱい彼を締めているとは思えない静かな口調で言った。
「懐に飛び込まれるのが一番嫌いなのだ。だから、その弱点を補う為に、こうした技を身に着けた。とはいえ、俺にここまで手のうちを出させた男もそういない。誇ってもいいことだぞ、小僧」
「くそっ!」
 シャーは、左手とまだ剣を握っていた右手で何とかザハークの右腕を剥がそうとするが、その太い腕は動きそうもない。右手の剣は、長剣ゆえこの距離では刃の長さのせいで扱いづらく、反撃を試みようとしても自分を傷つけるおそれも強い。そんな状態の、生半可な反撃をザハークが許すはずもないだろう。それにたとえ、この脱出したところで組討になるだろうから、長剣に固執するのは命取りだ。
 シャーは素早く考えを切り替えて、剣を捨て、腰の短剣を右手で抜いたが、それはザハークに読まれている。ザハークは、右腕を固定して、左手でシャーの右手首を抑えてきた。利き手ではない左手でも、彼の握力は強く、シャーの身動きを制限できるほどの力は備えていた。
 シャーが舌打ちして、ザハークをにらみつけると、彼はにやっと笑った。
「抵抗しても無駄だ。この技が完成すれば、さほどの苦痛は感じない間に気を失う。あきらめたほうが身のためだぞ」
(畜生、どこまで強いんだ、コイツ! だが、ここで返せないと、間違いなくオレの負けだ!)
 シャーは、掴まれて白くなった右手を見た。危うく握られて短剣をつかむ指を離してしまいそうだ。
(正攻法じゃ勝てない、が、必ず何か活路はある筈)
 不意にザハークの左腕が目に入った。黒い布がぐるぐるに巻かれている。そうだ、ザハークは左腕を負傷している筈だ。左腕が弱点になっている筈。ということは、このまま、体当たりするように左腕に負担をかければ、一瞬、左手の圧迫が弱まるはずだ。その時に反撃することができるかもしれない。
(とにかく、短剣さえどうにかできれば……)
「うおおおおッ!」
 シャーは、全力でザハークを背負うようにして彼を右に押し込んだ。このまま投げられればと足をかけるも、さすがにザハークはそこまで乗ってはくれない。しかし、それはシャーも予想済みだ。その瞬間に右手の短剣を自由な左手に持ち替えようとした、が。
「甘いわ!!」
 ザハークは、逆にシャーの足を払って、そのまま、彼を押しつぶす形で地面に押さえつけた。持ち替えようとした瞬間だった為、右手から短剣がこぼれ、からからと音を立てて転がり、シャーは石畳で頭をぶつけた。
「畜生ッ!」
 一瞬、くらりとしたもののすぐに回復したシャーは悪態をついて、手を伸ばすが、ザハークはその体勢のまま、シャーの体を逆にそらす形で首を締める形に技を修正する。
「く……!」
 何か生暖かい感触のものが額から流れ落ちてくる。どうやら先ほどので額を切ったのか、右目に血が入ってきた。
「甘いな、小僧。俺とお前の体格差では無理だ。だが、俺の左腕に体重をかける形で、今の攻撃を仕掛ければ、一縷の望みはあった。貴様もそれをわかっていたはずだ。何故そうしなかった?」
「へッ、うるせえ……」
 シャーは、苦笑した。
「て、てめえのせいで、怪我させたってのに、傷跡狙うなんざあ、そんな卑怯なことできるかよ!」
「ははは、お前も存外に損な性分だな。まったく殺すのが惜しい」
 まだ手の届きそうなところに短剣が転がっている、シャーは右手を伸ばすが、指先が柄に届くか届かないかという距離だった。
(くそ、もうちょっとなのに!!)
 シャーが、もう少しと手を伸ばそうとした瞬間、ザハークの右腕の力が強まった。そのまま上半身を引っ張られる形になる。まだ、かろうじて両側の頚動脈を押さえられてはいないが、徐々に苦しくなってきていた。
 締め落とされたらそのまま死だ。ぎしぎしと体が軋み、左胸の古傷が再び痛み始める。あの時と同じ、黒い殺意。ザハークから感じられるのは、あの時のそれと同じものだ。それがシャーの心にわずかに恐怖心を呼び起こさせる。
 ――このままでは、また……!
「あきらめろ、小僧」
 ザハークの声は冷徹に響く。
「もういい。貴様は良く戦った! ここで敗北しても、なんら恥じることはない」
「……く……!」
 シャーは、思わず歯噛みした。万力のようなザハークの力だ。この半ば抑えられた体勢では、先ほどのように技を返そうとすることもできそうにもない。
「ッ、畜生! 勝手、な、こと、言いやがってッ……! そんな簡単にあきらめられる、かよ!」
 シャーは、どうにか技を完成させないように抵抗を試みるのが精一杯だった。ザハークをにらみつけると、不意にザハークが、どこかさびしそうな顔になった。
「これ以上、俺とお前が戦いを続ければ、血みどろの勝負になる。俺もお前も満身創痍になり、どちらかが、惨たらしい最期を遂げるまで戦うことになる。俺は、貴様とそんな勝負をしたくない! あきらめてくれ!」
 ザハークは、頼むような口ぶりになっていた。
 その言葉は、シャーにとってはいくらか意外だった。戦闘においては常に冷徹な態度で臨んできたザハークには、ずいぶんと不似合いに感じたのだ。そして、ザハークが、本当に自分を殺すつもりでいるのかどうか、シャーは一瞬わからなくなった。彼が言うとおり、この技が完成すれば数秒で失神する。それで、彼は満足するといっているのか。もしかして、彼はトドメを刺さないつもりなのか?
 だが。
 シャーの額から右目を通って血が顎まで伝い、そのままぽたぽたと流れ落ちる。その生温かい感触が、シャーに先ほどの狂気じみた戦意を呼び起こさせ、わずかながらの恐怖心を掻き消させていた。
 シャーは、その身にまだ闘志を燃え上がらせていた。目の前が真っ赤に染まっているかのようだ。
(冗談じゃねえ! オレだって、ここで引けねえんだよ! 馬鹿野郎!!)
 しかし、じわじわとザハークはシャーの顔を上げさせている。顎の下に腕が入れば、技は完成だ。このままではジリ貧だ。もういくらももたない。
(なんとか、短剣を……! もう少し!)
 右手の指を伸ばすと、かすかに短剣の柄に届いていた。指で何とか手繰り寄せて、握ることさえできれば。かろうじて、指を動かすと、くるりと短剣が回転して、シャーの手に収まった。
(やった!)
 その瞬間、シャーが短剣に気を取られたのを隙と見たのか、ザハークの腕がするりと顔の下に入った。ぐっと頚動脈が圧迫されるのを感じた。
「終わりだ」
 ザハークは冷たく言い放ち、仕上げにかかる。その力が強くなり、シャーは何とか腕を剥がそうともがくが、ザハークはびくともしなかった。そのうち、視界がちらちらとゆれ始め、意識がかすかに薄れてくる。
(ヤバイ!)
 と、その瞬間、無我夢中で無意識にシャーがもがいていたせいか、後頭部を締めていたザハークの左腕の力が少し緩んだようだった。そして、その力の緩みが、完成していたはずのザハークの技の均衡を崩し、一瞬、右腕の力が弱まったのだった。シャーは、反射的にそこに活路を見出した。一瞬の隙に右腕の圧迫から抜け出したシャーは、倒れこむようにしながらザハークから離れた。
 はあはあと息を荒げながら、シャーはどうにか立ち上がる。締められた影響か、頭がくらくらしていたが、シャーには、戦意が残されていた。むしろ、右目に入った血でにごった視界と、気を失いかけて混乱しかけた頭のなかで、相手への闘志だけがはっきりしていた。そして、シャーの手には、いつの間にか短剣が握られている。
「うおおおおお!」
 そのまま、シャーは、ほとんど反射的にザハークの首筋めがけて短剣を突き出していた。ザハークは、相変らず冷静な目をしていた。彼は丸腰だったが、そのまま、短剣を手で受け止めそうにも思えた。
 しかし。その瞬間、シャーは、月光に輝く白刃の光が横から割って入ってくるのを見たのだった。
 シャーは、右手を払われるような衝撃を感じ、そのまま後ろに弾き飛ばされた。その短剣は、ザハークに届く前に甲高い金属の音とともに弾き飛ばされ、石畳の上に転がった。
 何が、とシャーが視線を走らせると、ちょうど、シャーとザハークの間に割り込むように、いつの間にか黒い人影が現れていた。
 全身黒装束のその男の、青ざめた顔だけが夜闇に浮き出してみえるようだ。その手に、きらめくのは彼の大切な魔剣フェブリスである。
「そこまでだ!」
 男の声が、熱い空気の中で冷たい色を帯びて響いた。
「この勝負、俺が預かっておく! 今日のところはここまでだ!」
 シャーは、そこで初めて我に返った。その男は、よく見知った、そもそも、彼自身がここに呼び出した男でもある。
「ッ、ジャッ……」
「エーリッヒ!」
 名を呼びかけたところで、ザハークの驚いたような声が割って入った。
「エーリッヒ?」
 聞きなれない名前にシャーが思わずきょとんとして、ジャッキールの顔を見上げるが、ジャッキールは平然とした様子だ。いや、どこか不機嫌な雰囲気もある。ザハークは、にやりとして笑いかける。
「やはり生きていたか! エーリッヒ」
「ふん、貴様の首も取らん間に死ねるか」
 ジャッキールはつまらなさそうに吐き捨てた。
「ジャッキール、いきなり出てきてなんだよ!」
 状況が飲み込めないシャーだったが、ふらっとジャッキールに近づきつつ抗議をする。シャーは、まだ戦闘状況下の興奮状態にあった。そして、ジャッキールの行為は、神聖な一騎打ちに水を差す行為に他ならず、今の彼にはそれは許されざるものに思えた。
 そんな彼にジャッキールは静かに目を向ける。
「この勝負は俺が預かるといった。今日はここまでにしろ」
「何言ってやがる! これは、オレとサギッタリウスの勝負なんだ! アンタには関係ねえじゃねえか!」
 シャーは、思わずそうまくし立てた。
「いくら、アンタでも、この勝負に手出しするなんざ、ゆるさねえぞ、ジャッキール!」
「は? 何だと? 何がゆるさないだと?」
 シャーがそう言った瞬間、ジャッキールは、ギラッとシャーをにらみつけた。
 その目は、常の彼のものとは変貌してしまっていて、どこか焦点が合っていなかった。それは、頭に血が上っていたシャーですら、一瞬、気後れさせてしまう類のものである。そんな目をしたまま、ジャッキールは、苛ついた様子を隠さない。
「嫌だというのなら、ここでお前から殺してもいいのだぞ?」
「い、いきなり、何言ってんだよ?」
 唐突にそんなことを言い出す彼の熱を帯びた瞳に当てられて、シャーは、逆に冷静さを取り戻す。
 また、この男は、狂気の世界に片足を突っ込んでいるのか。ジャッキールはかすかに目を眇めて、口の端を痙攣したようにふるわせて歪めた。
「どうせ俺が止めなければ、どちらか死ぬまでやることになるのだろう。だったら、俺が手を下しても同じことだからな。わかるか? 止めないというのなら、一人ずつ殺してでも止めてやるといってるのだ! どうする、今すぐやるのか、やらないのか、どっちだ!」
 そんなジャッキールを見て、ザハークが鼻で笑った。
「よせ、エーリッヒ。小僧が困っている」
 ザハークは、シャーの困惑を代弁するようにそう割り込み、なにやら感慨深げに嘆息をついた。
「しかし、貴様らが顔見知りとはな。まったく、偶然とは恐ろしい。それとも、偶然ではなく、必然とでもいうべきか?」
 ザハークがにやりとしたのは、どうやら彼が本当にジャッキールの生存を喜んでいるからのようだった。
「ははは、生きたまま貴様と再会できたのは僥倖(ぎょうこう)だ。俺も久しぶりに神に感謝するべきことができたというわけだ」
「それだけ、貴様と俺が腐れ縁だということだ。まったく忌々しい」
 ジャッキールは、どうやら機嫌が悪いのか、ニコリともしない。
「しかし、ひとの勝負に水を差すとは貴様らしくもないな。小僧が俺に殺されてはならぬと慌ててでてきたのだろう?」
 ジャッキールと対照的に、ザハークは、どこか楽しげになっていた。
「貴様が見かけによらず、人情家なのは知っているが、ちいっとやり方が強引ではないか?」
「は、馬鹿を言え!」
 ジャッキールは、不機嫌に首を振る。
「俺がここに来たのは、小僧がお前に殺されるのを心配したのではない。お前が殺されてはかなわんから来ただけだ。事実、先の攻撃で受ける側のお前は丸腰だった。回避できないことはなかったが、無傷ではすまなかった。その首、俺が貰うと決めているからな!」
「はは、そうだな。確かに、先ほどの攻撃には、三白眼小僧に分があった。あれで小僧に勝負あったとしてもいい」
 ザハークは、冗談でもなかろうが、サラリとそんなことを言ってのけ、シャーの方を見た。
「そういうことだ。小僧、勝ち名乗りは貴様に名乗らせてやるから、ここは一旦引け」
「し、しかし、オレは……!」
 シャーが反論しかけて、ジャッキールをにらむが、ジャッキールはシャーの方に視線すら向けない。ザハークはそれをなだめるように言った。
「お前との勝負は、他のいかなるものが邪魔に入っても、それを排除して続ける価値のある勝負ではあるのだが、よりによってコイツが邪魔に入ったのでは、俺もお前も簡単には排除できまい。それに、先ほどの攻撃が決まっていれば、俺に不利な状況となっていた。お前の勝ちだ、ここは引け」
 そこまで言われて、シャーは、不服ながらも短剣をおさめて引き下がる。ザハークは、にんまりとジャッキールに笑いかけた。
「これでいいのか、エーリッヒ。で、どうするつもりだ? 今度は貴様が代わりに立ち会うのか?」
「立ち会う? ふん、ふざけたことをぬかす。今のお前が、俺と立ち会えるはずもなかろうが」
「何がふざけた事だ。俺とお前が対峙して、剣を抜かなかったことはない。今日とて、同じことだ」
 はっ、とジャッキールは、口元を引きつらせるようにして笑った。
「俺は貴様の為に言ったのだがな。貴様の方がそう望んでいるなら、いいだろう」
 ジャッキールは、あえて右手で持っていたフェブリスを左手に持ち替えて、きっとザハークの方に刃先を向けた。
「今回は趣向を変えて、左手のみでやろうではないか」
「何?」
 ザハークが、その言葉に眉根をひそめた。その反応を見て、ジャッキールは嘲笑する。
「利き手以外でやるのがそんなに恐ろしいか? 俺とて、右利き。両手剣をお互いに片手で持つ。条件は同じだろう?」
「まさか、そんなものを恐れるはずがないだろう」
 ジャッキールは、挑発するように彼をにらみつけながら厳しく言った。
「だったら、左手一本で剣を持て!」
 ザハークは、一瞬無言に落ちたが、すぐにふっと笑った。
「いいだろう。それが貴様の望みなら……!」
 ザハークは、近くに刺して立ててあった曲刀を左手で素早く抜き、そのまま、ジャッキールに襲い掛かった。ザハークはまずは大振りの一撃を彼にくわえ、ジャッキールは左手一本で握ったフェブリスで弾き返し、そのまま、反撃に出た。それを軽々と受け止め、流れるように動きながら、ザハークは楽しそうに言った。
「腕は落ちていないらしいな、エーリッヒ!」
「怠け者の貴様と一緒にするな!」
 そのまま、二人は何度か剣を交え、かわるがわる位置を変える。
 双方とも、剣術に関しては一級の実力の持ち主であり、片手、しかも利き手ではない左手での戦いではあるとはいえ、その動きは洗練されたものだった。ジャッキールは、お手本のようにきっちりとした剣術の型を持ちながら、時々、彼らしくもなく荒々しい一撃をそれに折込み、ザハークは彼と対照的に、自由な流れる水のように滑り込むように相手を攻め、そして受け流す。対照的な彼らのそれは、まるで、一種の舞踏を見ているかのようで、シャーは、その場に圧倒されていた。
「シャー」
 それに見とれていたシャーは、不意に女の声が聞こえたのでどきりとして振り返った。そこには、いつの間にか、シャーが先ほど手放した長剣イトキリを両手で抱えて彼に差し出すリーフィがいて、シャーはさらに驚く。
「リ、リーフィちゃん、な、何でここに?」
「あら、シャー、ずいぶんと派手に怪我をしているわね」
 リーフィは、質問に答えず、シャーに剣を手渡してから、いそいそと手ぬぐいを差し出してきた。
「これつかって……。まだ血が出てるわ」
「え、ええ、ああ、そういや、まあ、その、……は、はい」
 ぐいと手ぬぐいを押し付けられて、シャーは、額の出血がまだ止まっていないのを思い出して、慌ててそれを拝借して顔を拭いた。
「ジャッキールさん、ずいぶんと血相を変えて出て行ったでしょう? あんな様子じゃ、冷静に手助けしてくれるのかしらって不安になって、後を追いかけてきたのよ」
 リーフィは、そう説明する。確かに、あのジャッキールの様子を見れば、誰でも不安にはなるだろう。
「でも、流石にジャッキールさんと一緒に飛び込むわけにもいかないから、星の女神様の神殿で待っていようと思って。私、ここの星の女神様の神殿には時々来るのよ。だから、貴方達の無事をお祈りしながら待っているのがいいと思ったの。でも、お祈りの最中、たまたま上の祭壇に上がろうとした時、窓から戦う貴方達の姿と間に入るジャッキールさんの姿が見えて。ジャッキールさんが、また尋常ではなさそうだったから、慌てて神殿から出てきたのよ」
「そ、そうだったんだ……」
 ということは、ザハークとの会話はほとんど聞かれていない、か。と、シャーは、こんなところで場違いなことを考えて、少し安心した。直接正体に言及はしていないが、それでも、リーフィに自分のことを推測されたくはないのだ。シャーは、リーフィの登場で、戦場特有の熱からは醒めつつあったのだ。 
「それと、……コレはジャッキールさんも気づいているとは思うのだけれど……」
 と、リーフィはシャーにこそっと何かを囁く。シャーは、はっと顔色を変えた。
「そ、それ、マジ?」
「ええ、神殿の上から見えていたもの」
「くそ、あのオヤジ、知ってるくせに目の前の状況で頭いっぱいになってんな! リーフィちゃん、一緒に来て!」
 シャーは、そういうとリーフィを連れて神殿の外に出た。それを、ジャッキールもザハークも気づいていまい。

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