「う、うるさい! 本当にディーゼルで走るとは思っていなかったんだ!」
 事の起こりは、軍曹殿ことタナカ軍曹とジョシュアが乗っていた輸送機が、敵機によって撃墜されたことから始まる。いきなり撃墜され、たまたま就寝中だった軍曹殿とジョシュアは、逃げ遅れたのだった。みんなが逃げた後、傾く輸送機から慌てて降下して命拾いしたのはよかったが、慌てた軍曹殿が通信機を落としたり、その他もろもろのアクシデントが重なった。
 多分、他の隊員達はもうとっくに救助されていると思うのだが、そんなわけで明らかに間違ったポイントに降り立った二人だけが、この未開の文明の大地におきざられたのである。
 ここ周辺には、彼らの友軍の基地はない。それどころか、敵軍の基地もない。というより、言葉は通じないし、正直、軍曹殿もジョシュアも、ここがどこだかわかっていない。
 一応、軍隊の徴用だということで、身振り手振りで一台車を借り、おそらく、基地があるかと思われる方向に走ってみることにした。だが、その徴用した車が、ものすごい問題を抱えていたのだ。
 もうちょっといい車もあったのである。そちらをジョシュアが借りようとしたら、軍曹殿が、いきなりオールドタイプのこのトラックを示したのだ。
「これを借りたい! クラシックでロマンを感じる!」
 ジョッシュが、この軍曹の部下であったことを、生涯の内で最も呪ったのはこの瞬間かもしれない。いや、これから先もありそうな気がするから、最もという形容はさけておこう。
 ともあれ、結論から言うと、ロマンを感じるという理由でかり出されたトラックは、本当にその名の通り、男のロマンを感じさせる超年代物だったのである。ロマン至上主義者の軍曹殿でも、このホンモノの超年代物には焦るには焦ったのだが、やがてその考えを変えた。
「どうせ、借りてしまったのなら、このままでいくぞ!」
 などと、彼はいう。
「昔、オレはボロ車で世界を旅する偉人の映画を見たのだ!」
 軍曹殿は、輝く瞳でそういった。ジョシュアは、何か言おうと思ったのだが、結局その気力がなかった。
 そして、まさに今の悲劇に――
 そう、そしてジョシュアは思ったのだ。夢を追う冒険家についていくということは、並々ならぬ決意を必要とするのだなあと。


 いつの間にか空はくれていた。旅の夕暮れは、大変情緒的なモノであるという。だというが、トラックを押して歩くジョシュアには、まるで太陽が見放して沈んでいくような感じである。
「軍曹殿。今日はもう諦めましょう」
 トラックを後ろから押しながら、ジョシュアはいった。
「日が暮れましたよ」
「わかっている」
「星も出てきました」
「わかっている」
「じゃあどうして諦めないんですか?」
 ジョシュアは、やあれやれとため息をつく。
「街がまだ全然見えないからだ」
 そりゃ、そうだろうな。


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