それはジョシュアにもわかる。いくらなんでも、こんな砂漠のど真ん中で壊れたトラックを囲んで野宿はしたくない。心が寒い。
 とはいえ、元々分からない土地だ。暗い中、走ってどうこうなるものでもない。いや、この場合、走るというより歩くだろうか。
 軍曹殿もさすがにつかれて、ため息をついた。
「仕方がない。今日はもう休むとしよう」
「やっぱりそうしましょ。軍曹殿」
 迷ってわけがわからないところにでるのは、心が寒いより切ないのである。


 休むことにして、あれこれ用意をしていると、あっさりと日は落ちて闇が訪れた。今日は月が出ていない。あたりは真っ暗だ。
 ともあれ、携帯していた固形燃料を燃やして暖をとりつつ、携帯の非常食を食べる。何となくぱさぱさした味だが、まあ、ないよりましだ。軍曹殿は、何を食べても同じ顔なので、名シェフの店で食べるときも、携帯食を食べるときも同じだ。かわいそうに、味覚は敏感じゃないのだろうなあ、とジョシュアはこっそりおもった。
 とはいえ、こういう場合、味覚が鈍い方がいいのかもしれない。何でもおいしくいただければ、それはそれでいいのだ。実際、ジョシュアも、あまり優れていない自分の味覚に、何となく感謝した。
「なあ、ジョッシュ」
 ふと、軍曹殿が話しかけてきたので、ジョシュアは不機嫌そうな顔をした。
「なんです。軍曹殿。上官命令でも、非常食は命に代えても渡しません」
「そうではないわ!」
 軍曹殿は、カッとして怒鳴りつけた。慣れっこなので肩をすくめないジョシュアに、ごほんと咳払いして、軍曹殿は態度を変えた。
「前々から思っていたのだがな、他の連中がいると貴様も答えづらいだろうとおもって言わなかったが」
 軍曹殿は声をわずかに潜めた。
「前々から思っていたが、貴様、どうして軍人になった?」
「…………」
 ジョッシュは、珍しく即答せず、顎をなでやった。
「軍曹殿は何故、軍人になったのですか?」
「オレか。オレは、宇宙探索隊にはいりたくてな」
 質問をそらされたのにも関わらず、軍曹殿は悪い顔もせずにそういった。
「……それは空軍に入らないとダメなのでは……」
「オレは士官学校にはいれんかったのだ」
「左様で」
「なので、軍隊にいれば、いつかチャンスもあるかもしれんと思ったのだ」
 熱い語りに入りそうだったので、ジョシュアは肩をすくめた。これは突いちゃいけないところをつついただろうか。
 ところが、軍曹殿は、それを続けずに、改めてきいた。
「で、貴様はなんなのだ?」
「就職がなかっただけですよ」
「本当にか?」
 ジョシュアは黙り込んだ。 
「貴様、大学出だろうが」
 片目を閉じて軍曹殿は聞いた。
「しかも、射撃ではもの凄い好成績だったとか」
「知りませんよ」
 ジョシュアは、眉をひそめた。明らかに不機嫌そうな顔をするのは珍しい。


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