いや、軍曹殿にジョシュアがあきれ果てるのは、何もこれに限ったことではないのだが、それにしても、つくづくである。
「しかし、どうしてあの雲を見て白鯨なんて思い出すんですか」
 ジョシュアは、やれやれと呟いた。
「雲を見て思い浮かべるとしたら、あんな凶暴でリアルな鯨でなくって、こうもわもわっとしたマスコット的なしろいくじらが定番でしょう? ぬいぐるみとか、そういうかわいいことは……」
 いいかけて、ジョシュアは軽く頭の後ろで手を組んだ。
「軍曹殿にかわいさを追求しても、単に気持ち悪いだけでしたね」
「なんだと! 貴様、自分から言いかけておいてなんだ!」
 軍曹殿は例によって、怒り出した。いや、多分、この場合、言いかけてほうっておいたのがいけないのではなくて、かわいさを追求したら気持ち悪いとかいったのが気に障ったのだろう。案外繊細なところがあるので、厄介な男である。
「まあまあ。それより、軍曹殿は鯨に片足食われないように気をつけたほうがいいですよ」
「何故いきなりそうなる」
「軍曹殿は、そうなると執念深そうだからエイハブみたいになりそうで、恐ろしいことです」
「それは大きな誤解だ」
 軍曹殿はさらにへそを曲げてしまったらしい。変なところで繊細だ。
 そんなに繊細なのなら、やっぱり、あの雲をみて、ぬいぐるみのくじらでも思い浮かべればいいのに、と性懲りもなく毒づいてみたりするジョシュアであった。

 軍曹殿とジョシュアが基地につくころには、軍曹殿がもうちょっと癒し系のわかる男になっているのかもしれない――と願ってみたりする。  



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