軍曹殿がそういって、思わず食って掛かりそうになったとき、握っていた線香花火の先のかたまりがぽとりと地面に落ちて、すぐに冷えて黒くなっていった。
「あっ! 貴様がいうから! もっともたせる予定だったのに!」
「……儚いですねえ」
 冷たいジョシュアの言い方に、軍曹殿は、ちっと舌打ちして、線香花火とやらをもう一本取り出した。
「貴様は、童心に帰るということを知らん。ドラゴンを並べて点火する時の喜びもわからんのだろうな」
「ドラゴン?」
「ふん、ハイカラ家庭の貴様には、わからぬ世界だ。貴様には全然わからん」
 ハイカラ家庭とは一体どういう意味なのか。ぶつぶつ言い始める軍曹殿を鬱陶しそうに無視して、ジョシュアはいつものように聞き流すことに決めた。
 花火なんて見ると感傷的になっていけない。空に上がる花火も、軍曹殿の手元にある線香花火も、儚いからこその美しさがあるから、余計そういう気分になるのかもしれない。どうも、感傷的になっていけないのだ。
 本当に、花火なんてみると感傷的になっていけない。けれども、ジョシュアは、あの時、執事とみたように、またシティで花火を見られるといいなあと、なんとなく思った。


 軍曹殿とジョシュアが基地につくころには、シティにも花火大会が復活しているかもしれない。
  


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