「貴様、何をしている! 死ぬ気か!」
 開口一番、軍曹殿はそう怒鳴った。思わずジョシュアは、返事なのかどうなのか、曖昧に答えてしまった。
「い、いえ、あの……」
「なら早く脱出しろ! ここはもうだめだ!」
 ジョシュアの言葉を否定と決め付けて、軍曹殿はそういってジョシュアの肩を押した。慌てて駆け出すジョシュアの後から、軍曹殿は、誰か残っていないか確かめてついてくる。
 そしてあの時、燃え尽きる前の輸送機から、彼らは飛び降りたのだった。
 
 あの時、軍曹殿がいなければ、自分は本当に死んでいただろうか。
 ジョシュアは、そんなことを考える。軍曹殿は、そういえば、ジョシュアを助けなければ、こうやって妙なところに迷い込まずに済んだのかもしれない。けれども、軍曹殿は、隊長だから、自分の部下の無事を確かめずに降下するわけがないから、軍曹殿が最後に輸送機を飛び降りるのは、決まっていたといえば決まっていたのだ。それに、通信機を落としたのは、軍曹殿の責任である。
 そう考えれば、別に自分が申し訳なく思わなくてもいいのかもしれないが、だが、珍しくジョシュアは、ちょっとだけ軍曹殿に対して申し訳ないような気持ちになった。
「軍曹殿は……」
 ジョシュアはぽつりと言った。
「こういうアテがあるような、ないような旅はお好きですか?」
「む、なんだ。いきなり何を言い出したと思えば! 曖昧な言い方をするな! 大体、オレは若い頃、ヨーロッパを放浪したといっているだろうが。オレは元から旅好きだ!」
「あれ。そうでしたっけ」
 ジョシュアの気持ちを理解はしていなさそうな、軍曹殿が、そんなことを返してくる。
「今まで各地の話をしただろうが! 忘れるな!」
(あれはそういうことだったのか)
 ジョシュアは、なるほどね、と顎をなでつつ、そう思う。頭上では、大きな音と共に、赤い花火が閃光を夜空にひらめかせていた。
 と、ふと、近くで何かが軽くはじける音がしたので、ジョシュアは、ふと足元のほうを見た。いつの間にか、軍曹殿がしゃがみこんで何かやっているのだ。
「何を不審なことをしているのですか」
 ジョシュアがひょいと覗き込むと、軍曹殿の手元になにやら細い糸のようなものが握られている。そこから、ちらちらと火花が出ていた。上で繰り広げられる壮大な花火とはえらい違いで、それはささやかで、どこか可憐な印象もあった。最初は盛大に炎が出ていたが、徐々にそれは静かにちらちらと散り始める。
「何です?」
「先ほど買ってきたのだ。こんなものが売っているとは思わなかった!」
 軍曹殿は、子供のような笑顔を浮かべながら、無骨な手でそうっとその先を握っていた。
「これは、線香花火という奴だが。うまくしないと、長続きせんのだ」
「……軍曹殿、そんな地味なもので何が楽しいんです?」
「き、貴様! 線香花火を侮辱するのか!」


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