本当は、ジョシュアだって、珍しくそんなこだわりを持っているのだった。実はジョシュアも、あのおとは好きだった。続けてくる大きな破裂音は、小さい頃、嫌いだったのだが、でも、あのけたたましいようで、儚い音は、好きだった。
 ジョシュアが花火を見たのは、随分子供の頃の話だ。ジョシュアは、執事の爺さんに連れられて花火大会を見に行ったのを覚えている。忙しい両親は、彼が物心ついてから、こんなイベントにつれていってくれることはなかった。やさしかった執事との楽しい思い出だけれども、ジョシュアにとってはどこか複雑な思いを思い起こさせるものだった。
 それに、……さきほどからぼんやり音を聞いていて、ジョシュアはあることを思い出したのだ。
「……ここのところ、火薬といえば、爆弾の破裂するのしか見てませんので、あんまりはしゃぐ気持ちじゃありません」
「貴様、発想が不毛な上に不幸なやつだな。こういう場合は、すかっと仕事のことは忘れ去って楽しむのだ」
 軍曹殿があきれた顔で呟いた。そんなことをいわれても、実際このごろはそうなのだから仕方がない。
 そう、だって、この前にああいう音を聞いたのは。ジョシュアは、夜空に緑色に輝く炎色反応を見ながら、ぽつりと思った。
 そう、この前、ああいう音を聞いたのは、軍曹殿とこっちに落っこちてくる前だ。

 ジョシュアは、あの時、ぐっすりと眠っていた。輸送機の中では交替で、あれやこれやをするものだから、その前の日、ジョシュアはちょうど夜に番をした後だった。だから、そのとき、輸送機に銃弾が撃ちこまれていても、全然気付かずにぐっすりと寝ていたのだ。
 ジョシュアが、とうとう目を覚ましたのは、突然コックピットからドーンという爆音が鳴り響いたときだった。花火か、などという平和な考えが浮かぶはずもなく、ジョシュアは、敵の襲撃を知ったのだった。
 慌ててジョシュアが、休憩室から外に出たとき、すでに人気はなかった。音のした操縦室のほうまでいくと、そこは真っ赤に燃え上がっていた。
 地獄のような赤い色に、見慣れた輸送機の中は、まるで機体ごと異世界に投げ込まれたかのように見知らぬものになっていた。ジョシュアは、何かに憑かれたように、赤い炎がはじけるのを見ていた。
 いいや、あの時、別に死ぬつもりなどジョシュアにはなかったのだ。だが、妙な、もしかしたら、諦めみたいな気持ちが、彼のどこかにあったことは否めないのかもしれない。もしかしたら逃げられないのかもしれない、という気持ちが、瞬間的にジョシュアの心にあったのは間違いない。それでだろうか。ジョシュアは、その場に立ちつくしてしまっていた。
「ジョシュア!」
 いきなり、肩を力任せにつかまれて、ジョシュアは我に返った。背後には、鬼のような形相の軍曹殿が立っていた。赤く染まった部屋の中で、顔色はわからなかったが、もしかしたら、あの時軍曹殿はヘルメットの下で真っ青になっていたのかもしれない。


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