軍曹殿はなんだかんだで人がいい。他の人間にもたかられているのを見たことがあるので、それを勘定すると、本当に餓死しかけていてもおかしくない。
「なんだ、じゃあ逃げられたんですか」
「やかましい」
 意地を張る軍曹殿に、ジョシュアはぽつりといいやった。
「哀れな」
「何かいったかジョッシュ!」
 さすがに聞こえたのか、いや、しかし、聞こえていれば、もっと軍曹殿の顔色が変わっているだろう。
「いいえ、雷は車に落ちても大丈夫だってきいたので、よかったなあと思ったのです」
「窓をしめんと駄目だろうが」
「鳴ったら閉めますよ」
 口の達者なジョシュアに、軍曹殿はふんと鼻を鳴らして複雑な気分をおさめた。
「それにしても、ミスタル・リーみたいなのらくらした人がどうやって死んだんですかね?」
「さあ、わからん。しかし、話にきいただけだから、その内現われそうな気がするな」
「それだといいですね。軍曹殿も借金を取り立てられますし」
「全くだ!」
 もう一度遠雷が鳴った。もうすぐ雨が降るのだろう。
 遠ざかる景色を見ながら、ジョシュアは、目の前の道端にミスタル・リーがふらりと現われるような気がした。
「リー曹長に敬礼」
 軍曹殿の声が、隣から聞こえてきて、ジョシュアは軽く、敬礼をとっておいた。
 リー曹長の花は、一体、どんな色の花を咲かせるのだろうか。そう思いながら、ジョシュアは、雨があの花に生気を与えてくれるといいなあとぼんやり思った。


 軍曹殿とジョシュアが基地につく頃には、ミスタル・リーの花は再び花を咲かせているのかもしれない。
 
  
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