リー曹長、人呼んでミスタル・リー。彼がどこの国籍の人間かは、あまり知られていない。ミスタルは、ミスターがなまったものだから、多分、当初、リー曹長がそういう風に相手を呼んでいたのだろう。
「リー曹長は、軍曹殿とは懇意にされているのですか?」
「それほど親しいわけじゃあないが、そりゃ、一度二度一緒に訓練すれば、あのサージャントは、ものすごくインパクトに残るだろう?」
「それはいえますね」
 ジョシュアが頷くと、ミスタル・リーは、にやりと笑った。
「アレは、でも、ハオハンだぞ」
「ハオハン? と、いいますと?」
「好漢(ハオハン)だ。まあ、義侠心あふれたいい男という意味かな?」
「なるほど……色んな意味で義理堅いですね」
 それは確かにそうかもしれない。まあ、なんだかんだいって、軍曹殿は豪傑でもある。
「まあ、だからこそ、借金もしやすいというかな。いや、ちょっと金に困っていてな」
 そういって、ミスタル・リーはにやりとした。
「……さして親しくなかったのでは……」
「それでも借金がしやすいということさ」
 リー曹長の笑みに、ジョシュアは軍曹殿の窮地を知った。ああ、あの人、なんかだまされてるな、と。
「しかし、リー曹長はあれこれ色んな言葉をご存知ですね? どこの出身なんですか?」
「さあ、オレの場合は、あちこち渡り歩いたからな。色んな言葉がいつのまにかまじっちまったんだろう」
「なるほど……。それは、ご趣味ですか?」
 ジョシュアは、ミスタル・リーがもっている鉢植えを見やった。改めてみてみると、それはあまりにも地味な鉢植えだった。最初、観葉植物なんだろうなあとおもったのだが、よく見るとそうでもない。ミスタル・リーがもっていたのは、花も咲いていない、葉っぱまで枯れかけた植物だった。いや、咲いていた花がおちてしまったのだろうか。どういう植物なのかは、ジョシュアにはよくわからない。
「ああ? コレか?」
「はい。さっきから気になっていたのですが」
「ああ、コレは、さっきその辺で拾ったんだよ。なんというか、ちょっとかわいそうになってな。部下の連中が踏んだもんだから、きっと枯れちまったんだと思ってさ」
「なるほど。……曹長は、植物がお好きなのですね?」
「好きというか、まァ、なんだ。……こういう殺伐した戦場にいるからな、花をみると妙に落ち着くんだよな。オレは、望んで戦場まわってるわけだから、別に辛くはないんだが……。あのサージャントと違って」
 その時は意味はわからなかったが、多分、軍曹殿が本当は宇宙へのロマンを抱えて軍隊入りしたことをいっていたのだろう。別に軍曹殿は戦いたくて軍隊にはいったわけでもないのだし。
「そうですか。でも、これ、花は咲くんでしょうか?」
 きかれて、ミスタル・リーは首をかしげた。
「うーん、まあ、栄養剤をやって世話をすれば、どうにかなるかもしれんし。どうにもならんかったら、まあ仕方がないさ」


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