ジョシュアが先ほど思ったことを、軍曹殿が反芻するように言った。
「ジョッシュよ! 基地は近いぞ! 喜べ!」
 軍曹殿は、思い出し喜びなのか、妙にテンションが高い。少年のような笑みを浮かべる軍曹殿に、ジョシュアは怪訝そうな顔をした。
(基地が近い? それはどうだろう)
 ジョシュアは眉をひそめた。
 確かに、先ほどの町は、言葉が通じた。行きかう人々の噂話も、彼らがしっている言葉だった。
 でも、だからといって、基地は近くなったのだろうか。ジョシュアは、この大地が見知らぬ、いや、自分達の連邦の力など及ばない遠い世界に思えてならない。
 自分達が、この大地に馴染んだから、だから言葉がわかるようになったのではないだろうか。
「軍曹殿……」
「む、どうしたあ!」
「……いいえ、何でも」
 ジョシュアは首を振った。さすがの彼でも、訊けない事がある。ジョシュアはふと、ここがもしかしたら死後の世界ではないかと疑ったのだ。
『貴様は宇宙植民市の生まれだから、大地をしらん! 本来はこういうものなのだ!』
 確かに、宇宙ステーションでしか暮らしたことのないジョシュアにとって、今回の降下というべきか、逃亡というべきかがはじめての大地だった。だからといっても、ジョシュアには、この世界は違和感だらけだ。
 実際は、自分達は、あの炎上する輸送機と運命を共にしてしまったのではないだろうか。時々、そんな風に不安におもうこともある。
「確かに、ここは妙な世界だが」
 不意に軍曹殿が言った。
「でも、オレたちは生きておるのだ。生きているということは、走っていけば基地がある!」
 ジョシュアの考えを見通したように、軍曹殿が前向きに言った。
「楽観的ですねえ」
「ふん。そういうものだ!」
 どうだか、と心で毒づき、ジョシュアは、握り飯を口に運んだ。米の甘さが口に広がると共に、ジョシュアは、ふと確信を得た。
 食べ物を食べてうまいと思うのは、おそらく生きているからだろう。そうでなければ、別に腹が減る必要もない。
「飯のうまい内は、基地に着ける気がしてきました」
「うむ、そうだろう!」
 ジョシュアがそういうと、軍曹殿は明るく言い、自分も握り飯を食べた。ウメボシとかかれたソレが、なんであるかはジョシュアは知らないが、軍曹殿には懐かしい味なのかもしれない。
 どこか生気のない、夢の中のような町だった。でも、軽油を入れすぎて、足元に油の海が出来た時、それを踏み鳴らした音は、あまりにも現実的だ。
 ここがどこだかしらないが、自分達は間違いなく生きている。だとしたら、どうにかしなければならない。
「軍曹殿、これ貰います」
「ん? ああ、って、貴様ああ!」
 そういってジョシュアが取ってきたのは、ショーチューという飲み物らしい。それにアルコールが入っているのは、火を見るより明らかだ。
「貴様あ! 一体何を考えているかー!」


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