「簡単にそんなことをするのは、略奪とかわらん!」
「軍曹殿だってトラックは徴用したじゃないですか」
「そ、それはーッ! か、金がなかったからだっ!」
 さすがにいいにくそうに、顔をゆがめる軍曹殿だが、ジョシュアはちょっとだけ軍曹殿が哀れになった。なにせ、その時貰い受けたトラックは、問題だらけのアレなわけであるのだから。
(やっぱり、こんなトラック、スクラップにする金がもったいないから、くれたんだろうなあ。というか、金要らないとか言われたし)
 ジョシュアはひっそりとそう思う。あの時、トラックを渡すときに、店のオヤジが厄介払いができてよかった、みたいな顔をしていたことは忘れられない。ニブイ軍曹殿は、そんなことにも気付いていない。
「ともあれ、燃料と食料ぐらいは手持ちの金で何とかするのだ!」
 そうだった。悲しいことに、こんな鈍い軍曹殿も、ついでに自分も人間なので、食料がないと生きていけない。軍曹殿なんて中身が半分機械仕掛けじゃねえかと思うこともあるのであるが、別にサイボーグではなかったらしい。人並みに、いや、人以上に飯を食すので、正直エンゲル係数は高いと思う今日この頃である。
「省エネって知っていますか? 軍曹殿」
 ぼそりとジョシュアは、内心皮肉を込めてつぶやいた。
「なんだ! 何か言ったか!」
「いえ、なんでもありませんけど」
 ジョシュアは、そういってわずかに苦笑した。


がたがた揺れる車。シートを通してわかる道の悪さも、慣れれば気にならない。
「コレ、意外にうまいですね。この米のかたまり」
 ジョシュアは、貪り食っていたものを示しながら言った。相変わらず無感動風だが、それは彼なりに感情をあらわしたものでもある。
「米の塊ではない。それは握り飯という」
「……パッケージには「おにぎり」とありますが」
「同じ意味だ!」
 憮然とする軍曹殿に、ジョシュアは疑いの目を向ける。
「本当ですか?」
「な、何を疑っているか! オレは、幼き頃よりそれを食してきたのだ!」
「……左様で」
 ジョシュアは、何やら必死な様子の軍曹殿を横目に、先ほどの町で買ってきた米の塊を食べる。中に入ったサーモンが、最近ろくなものを食べていなかったジョシュアには、結構新鮮な味である。
 軍曹殿は、やはり少々仏頂面だ。先ほど疑われたのが、軍曹殿のアイデンティティ意識に作用したのだろうか。
「それにしても、言葉が通じましたね、先ほどの町」
「うむ、言葉が通じるようになってよかった!」
 どこかほっとしたように軍曹殿は言った。
 ジョシュアと軍曹殿が所属していた連邦では、公用語をほとんどの人間が使っている。敵兵とも言葉が通じるぐらいだから、いかに公用語が広まっているかということがわかるだろう。
 言葉が通じない場所は本当に限られている筈だった。なので、余計に言葉が通じると安心してしまうのだった。
「やはり、言葉が通じると安心するな!」


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