何か温かいものを

 寒い風が、車の窓の外で吹き荒れている。心なしか、わずかに冷たい外気が漏れているようで、ジョシュアは身震いした。
(この車も、もう少し防寒をどうにかしてもらわないとな)
 などと考えては見るが、そもそも、廃車になってもおかしくない車に、これ以上の設備を期待するのは酷というものである。
「おい、ジョッシュ」
 外から声がするのだが、ジョシュアは、毛布に包まって寝かけていた。こんなくそ寒い時に、外に出てたまるものか。となると、向こうもそろそろ彼の性根を理解してきているので、黙ってはいない。
「こら! ジョシュア! 貴様、わざとだな!」
 ごんごんごんとガラスをたたく音で、仕方なく、ジョシュアは、車の窓を開けた。電動で自動であくようないい機能はない。もちろん、手回しである。それも面倒なので、そろそろいい機能が欲しいのだが、そんなことを期待するほど稼ぎはない。
 ちょろっと窓を開けると、途端に寒い風が吹き込んでくる。おまけに、余り見たくもない軍曹殿の形相が視界に入ってくるものだから、ジョシュアは窓をあけるのをそこまでで止めておいた。
「軍曹殿」
「ジョシュア、貴様も手伝わんか! 重くて俺一人ではもてないのだぞ」
 ちょっとだけあけた窓から、眠そうな顔をのぞかせると、なにやら重そうな荷物を持った軍曹殿が切羽詰った様子で声をかけてきた。
「軍曹殿、自分は冬眠中であります」
「貴様というやつは!」
 軍曹殿の怒号が聞こえる前に、ジョシュアは窓をぴしゃりと閉めたのだった。


 軍曹殿とジョシュアが、この変なところに紛れ込んでから大分と少し。いいや、少しと大分なのかもしれない。何となく、時間の経過がゆるく感じられるここでは、正確な時間などわからないのかもしれないと思うこの頃のジョシュアである。軍曹殿は、カレンダーをめくるほど繊細な男でもなさそうだし、多分同じようなものなのだろう。
 ともあれ、ここは寒かった。冬ということもあるのかもしれないが、とにかく寒くて冷える。元来が怠け者のジョシュアは、冬になるといっそう動く気力がなくなるのだった。
「全く。貴様という奴は、どうして軍隊に入ってきたのかどうかわからん」
「まあ、それなりに事情があったんですよ、軍曹殿」
 無理やりジョシュアに手伝わせて、荷物を荷台に積み込んだ軍曹殿は、そんなことをぶつぶつといっていた。相変わらず、ジョシュアは余り運転したがらないので、軍曹殿が基本的に働いている。
「第一、今の商売は軍人というより、ただの運送屋じゃあないですか。そんな目くじらたてなくても」
「今でも心は立派な軍人だ。第一、俺たちは基地を目指しているということを忘れるな」
「いや、もう忘れかけてましたけど」
 ソレは仕方がない。ここのところ、軍人らしいことなどほとんどしていないのだ。たまには、射撃の物まねもやってみるが、賊に襲われることもないし、普通に荷物を別の町まで運んだりしてお金をもらっているだけだ。


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