第十章:風裂きのシャザーン-8
「あの馬鹿! よくもあたしを辺境の中なんかにおいていってくれたわね!」
森の中、ようやく開けたところまで出られた黒髪の美しい女は、顔に似合わぬ口調で吐き捨てた。
「どおしてくれようかしら…あの喧嘩馬鹿は〜〜〜!!」
結局、ダルシュはあのあと、あの覆面の男を追って行ってしまったのである。シェイザスの後ろからは、主人が森の奥に行ってしまったのでついてきたダルシュの馬がようやく広いところに出て、目を喜びに輝かせているところだった。
「…あの馬鹿。戻ってきたらただじゃすまさないわよ…うふふ。このシェイザスをなめてもらっちゃ困るわ……」
暗い笑みを浮かべながら、シェイザスはぼそりとつぶやいた。
「あの…」
不意に人影が落ちて、シェイザスはそちらを振り向いた。そこには、あかい巻き毛の髪の若い娘が立っている。かわいらしく、パッチリした目をしていて、何となくほんわかしたイメージだった。
「もしかして、シェイザスさんじゃないですか? ダルシュさんのお知り合いの…」
シェイザスは名前を呼ばれ、それから少しあごに手を当てて考えてから訊いた。
「もしかして、あなた、マリスさん? ええ、ハザウェイ家の…」
シェイザスが訊くと、あかい髪の娘は小首を傾げてにこりとした。
「ええ、やっぱりシェイザスさんなんですね。ダルシュさんからお噂はきいていましたが本当に綺麗な方なんですね! とてもびっくりしました」
「あら、まあ。綺麗だなんて!」
綺麗などといわれると、シェイザスもまんざらではない。途端、機嫌がよくなって愛想よく笑い始めた。
「貴方の事もきいているわ。レックハルドから」
「まあ、レックハルドさんが。なんだか恥ずかしいですわ」
マリスはにっこりと純粋そうに微笑んだ。その様子があまりにも裏表がないのをみて、シェイザスは少しため息をつく。
(なるほどね。レックハルドが惚れるわけだわ。)
確かにマリスはかわいし、親切で、いい子である。だが、普通レックハルドのようなタイプは、かわいいだけの娘にあんなにでれでれしないものである。寧ろ、自分のメリットになるような女性に目をつけてしかるべきだが、計算高い彼の、あの全く計算なしの直球勝負を見る限り、この女性には打算も作戦も何も考えられないのだ。それだけ骨抜きになっているともいえる。
彼がそうなる理由は、シェイザスには何となくわかる。自分の利益を計算しながら生きているレックハルドのような男は、逆に計算の通じない相手が苦手でもあり、憧れでもあるのかもしれない。
人は、自分にないものに憧れる。冷徹なレックハルドは、かえってこういう優しい心の持ち主に自分とは違うものを見出すのかもしれない。
「どうなされたんですか?」
考え込むシェイザスに、マリスが訝しげに聞いてきた。
「ええ、なんでもないわ。…あら?」
我に返ったついでに、シェイザスは、ふと上空を見上げた。今、光が落ちたような気がしたのだ。雲が割れて太陽が顔を出しているのだが、確かにその光は翳っていた。
「まあ、…また日蝕かしら?」
マリスは、シェイザスの視線を追ってぼんやりと訊いた。
「……変ね」
シェイザスは、眉をひそめた。
「どうしたんですか?」
「…今日は欠け方がおかしいわ」
先ほどは部分蝕だったはずだ。それが今はそこから広がるように不定形に闇が円を食っている。
「本当。あんな欠け方見たことがないわ」
マリスはぱちりと大きな目をしばたかせた。
「ロゥレンちゃん…大丈夫かしら」
マリスは自然とそう口にしていた。マリスには、日蝕が示す意味などわかるわけがなく、辺境とのつながりすらわかっていないだろう。それでも、彼女が辺境の妖精であるロゥレンの心配をしたのは、本能がそう示したからかもしれない。
日が欠ける。
徐々に円が欠けていくのが、まるで網膜に焼き付けられていくような感覚だった。一面赤い空なのに、光が落ちていくのがわかる。また日蝕だ。
走りながらイェームは空を少し見上げていた。今日の日蝕は欠け方がおかしいように思う。
(…やばいな、結構きちまってるじゃないか。)
イェームはそう思いながら、赤く染まった森を走っていた。
「どこまで行くんだ! イェーム!」
レックハルドの声で、イェームははっと我に返った。まだ足元で何かが弾ける音がする。赤い炎の道からは大分遠ざかったものの、まだ火の粉は飛んでくる。息苦しいのにも、熱いのにも大分慣れたが、レックハルドもイェーム自身もであったが、いい加減火の近くは勘弁してもらいたかった。
「もう少しで抜ける。それから、奴の場所に行く。…あんたも一緒に来たほうがいいかもしれない」
「奴?」
ああ、と頷き、イェームは額の汗をぬぐった。覆面とマントを外していないイェームの暑さはレックハルド以上だろう。
「この炎が消えないのは、妖魔の連中が嫌がらせをしてるからだ。それらの親玉に先にお帰りねがえれば、あとはレナルたちでも消す事ができる」
「親玉? そんなのがいるのか?」
不審そうなレックハルドに、イェームは答える。
「ああ、いるよ」
「わかった。…そいつを追い返せば、とりあえずこの灼熱地獄からは逃れられるってわけだ…。だが、こんなに燃え広がっちゃってよ…、レナルたちは間に合うのかい?」
レックハルドの不安そうな一言に、イェームは少しだけ笑ったようだ。目にほんの少し悪戯っぽい光が浮かぶ。
「大丈夫、そこのところはちょっとオレも手を打ったというか…」
「手を打った? どんな手だ?」
イェームは、ひょいと木の枝のほうを見上げた。レックハルドもついでに見上げる。そこには、何か妙な袋のようなものがつるされていた。しかも、それは彼らが走る方向にちょうどまっすぐ伸びていた。
「なんだあれ?」
「アレに火が当たるとだな…」
イェームが得意げに話し出したとき、ちょうど飛び火したらしく、その袋の底を小さな火が焦がした。
と、突然の破裂音が鳴り響き、袋が弾け飛んで、火のついた破片がレックハルドの近くへも飛んでくる。慌ててそれを避けて、レックハルドはイェームのマントをつかんだ。
「な、なんだ今のは!」
「…あれ?」
イェームは、足を止めて破裂した袋をじっと見たあと、困惑したような顔をした。
「…調合…、やっぱり間違えてたのか…やっちまったな〜〜…」
「ちょ、調合ってなんだよ!」
レックハルドは自然と詰問調の口調になっていた。
「説明しろ!」
イェームは、その勢いをもてあますように乾いた笑みを浮かべた。
「しょ、消火剤になる薬草を適当につめて、あっちこっちの枝につけておいたんだよ。だから、消えるかなって思ってさ…。そうおもって、いいかな〜って…」
「爆発したことについてはどう説明するんだ?」
「あ、あれは、調合をうっかり間違えて…」
イェームは、破裂したあとの残骸を見ながら苦笑した。
「でも、…一応消えてるみたいだし」
確かに、爆発はしたが、それが飛び散ったあとには飛び火していない。色々な草がこげたような黒い粉のようなものが草の上に広がってはいたが。イェームが言うとおり、消火剤としての役割は一応果たしてはいるようである。だが、進む方向には一様にあの袋がぶら下がっており、おまけに飛んでくる火の粉もまだおさまる気配はない。後ろから炎自体も迫ってきている。
「お前さ、この進行方向に全部に同じことをしたんだよな? 見えてるものから推測しても…。これからこっちの方向に逃げるのに、オレ達はずーっといつ破裂するかわからねえ、あのびっくり袋に脅されながら逃げなきゃならねえのか?」
レックハルドは、何となく気まずそうなイェームの肩を叩いて、口だけにやりとした。
「…お前、なんてことをしてくれたんだ?」
「…え、ええっと…いや、その…誰にも間違いはあるものだから…」
言いよどむイェームの肩の向こうで、いきなり閃光があがった。はっと空を見上げる。高くそびえたつ木々の向こうでまっしろな光が暗く赤い空に異様な色彩を与えている。
反射的に、右手の甲で目をかばいながら、レックハルドはイェームに目を向けた。
「な、なんだ、…今のもお前か?」
「オ、オレじゃないよ」
首を振り、イェームは、何かを思い出したようにレックハルドのほうを向いた。
「…もしかしたら…今のは…」
イェームの碧の瞳に、緊張感がふとよぎったのをみてレックハルドは、わからないながらに状況を読んだ。無理に笑いながら、レックハルドは言った。
「急いだほうがよさそうだ…だな?」
無言でイェームは頷いた。
白い光が飛び散ったあと、日が欠けるのが再び見えた。ダルシュは大丈夫かなあ、と思いながら、ファルケンは憑かれたように太陽に魅入っていた。
さっきは部分蝕だったはずなのに、なぜか今見えるものは皆既食だ。太陽の光の円は、まるで水の中に墨を混ぜたようにじわじわと闇に染まる。日食の欠け方とは違った。
――ああ、そうか。
ファルケンは思う。今までどうして気づかなかったのか。今ははっきりとわかる。そしてそれが分かったとき、今までばらばらだったパズルが全部瞬時に繋がった。
今なら全部分かる。日蝕がなぜ起こったか。そして…。
先ほどの閃光で五メートルほど吹っ飛ばされ、ダルシュは地面に体の左側を叩きつけられた。かばった拍子に左腕が体の下側になり、それでいためたらしく激痛が走った。
「ちくしょう…」
ダルシュは痛みをかみ殺しながらつぶやいた。
「人間にはできねえような姑息な技使いやがって!」
ダルシュは、自分よりも小柄な狼人の青年を睨んだ。青年は、呆然と空を見ている。どこか、妙な感じがした。
あの光は衝撃を与えるだけでなく、その中に棘のように浴びると痛みを覚える光の筋が混じっていたのである。それを全身に浴びたのだから、ファルケンがあれほどぐったりしていても仕方がない。
ダルシュが比較的軽いダメージで済んだのは、彼には光の棘のわずかな隙間のようなものが判別できたからである。戦いなれているダルシュは、そのまま反射的にその間隙に身を沈め、直撃だけはさけたのである。
だが、ダメージが軽かったにせよ、このままでは勝てるわけがない。状況の悪さに変化はなかった。
ファルケンは今回は巻き添えを食らっていなかったが、死んだように動かない。気になって、ダルシュは右手で起き上がるとそのまま這いずるようにして、ファルケンに近寄った。青年は動く気配を見せない。
(なんだ、あの野郎…)
とは思うが、今は動いてくれないほうがいいので、ダルシュはファルケンの元にたどり着いた。仰向けのファルケンは、唇でも切ったのか口から血を流しながら上空をうつろな瞳で見つめていた。
「おい! 大丈夫か!」
ダルシュの姿をぼんやりと認めると、ファルケンは口を少し動かす。声が聞き取れず、ダルシュは怪訝な顔をした。
「な、何だって?」
「…ルージェ…ウェル、ルージェイア」
ファルケンがつぶやいている言葉がダルシュにはわからない。それも当然でファルケンが使っているのは、
辺境古代語
のほうだったのである。
「何言ってるんだ! お前! オレがわかんねえのか?」
心配になって顔色を変えるダルシュの前で、ファルケンはぶつぶつとつぶやいた。
「ルージェイア…(わかった)」
それからもう一度上空を見る。どろどろと翳る太陽を見て、彼は再びつぶやく。横で彼に呼びかけるダルシュの存在に気づいていないように、しかし、その言葉には確信がこもっていた。
「…リージェルシーダスムーシュエナリバルス…(日蝕はマザーの力だ)」
最後の光が、ファルケンの瞳を射る。
「シーダスニッシュヨルス(そのとおり)」
不意に別の声が割り込んできて、ダルシュはハッと顔を上げた。靴音がして、誰かが傍に立つ。土ぼこりに汚れたマントを着た背の高い男が、ファルケンのほうを見下ろしていた。
「『日蝕とマザーの力の関係は深い。』」
男は
辺境古代語
(
でそういうと、ダルシュのほうを見て少し腰を折った。
「…大丈夫か?」
「お前…」
その男の顔は布で覆われ目だけしか見えない。先ほど、彼らが狼人に追われたときに助けてくれた男に違いなかった。
「あんた、一体……」
「あんまり無理はしないほうが……わっと!」
「ファルケン!」
男が優しく言いかけたとき、その男を押しのけてレックハルドが走ってきた。ついでに、ダルシュも押しのけられ、軽く傷に触れたのかとっさにレックハルドに向けて怒鳴りつける。
「何だ!! つきとばすことないだろが!」
「なんだてめーもいたのかよ! 知らなかったんだ、悪かったな!」
わざと今気づいた振りをして一度毒づいたが、ファルケンの様子を見てレックハルドは顔色を変えた。慌ててしゃがみこみ、軽くゆすりながら呼びかけた。
「ファルケン! しっかりしろよ! どっかやられたのか!」
ファルケンは、焦点の合わない目を少しだけレックハルドのほうに向けた。
「オレだ! わかるか?」
「…ああ、……レック…? どうしてここにいるんだ?」
ファルケンはようやく気づいたのか、半分眠ったような目で彼を見上げた。それから、うわごとのように言った。
「そうだ…オレわかったんだ。…にっ…しょくは……」
「おい、何わけのわかんねえ…そんな事どうでもいいから! ああ、無理に喋んなくていいぞ」
レックハルドは、ファルケンが意味の分からない事を言い出したので、少し不安になった。ファルケンは、レックハルドの袖口をつかむと何か確信したような目で言った。
「レック…『日蝕』は……マザーの……」
ファルケンはそこまで言いかけたが、急に気を失ってがくりと首を横に垂れる。
「お、おい!」
いきなりの事に、レックハルドは少し焦った。慌てて揺さぶろうとするレックハルドをダルシュが止める。
「あ、馬鹿! こういうときは揺すっちゃいけねーんだ! 気絶しただけだからそっとしておいてやれ!」
「わ、わかってる! ちょっとびっくりしただけだ!」
言われてレックハルドは怒鳴り返し、ファルケンをそっと地面に寝かせると振り返った。青年は先ほどは無表情に佇んでいたが、今は不思議な笑みを浮かべていた。
「たしか、あんたはシャザーン=ロン=フォンリアだな!」
「…そうだともいえるし、そうだともいえない」
シャザーンはにっと笑った。その笑みが、あまりにもその容貌とかけ離れすぎていて、レックハルドは違和感を通り越して悪寒を感じる。
「どちらにしろ、あれがこうなることを望んでいるから、私はそうした」
「わけわかんねえ謎かけをしに来たんじゃねえ! どうしてファルケンを…」
いきり立つレックハルドの視界に大きな手のひらが入ってきた。イェームだった。
「…レックハルド。危ないから、ここはオレに任せてくれ」
「し、しかし…!」
「こいつは、あんたの知ってるシャザーンじゃない。…ちょっと変なのが混じってるからさ。…オレに全部任せてくれ」
イェームの真剣さに、レックハルドは事の重大さを知る。仕方なく頷くと、イェームは顔をシャザーンのほうに向けた。青年は、呆然として立っていたり、こちらを嘲笑うような表情をしていたり、まちまちである。イェームは少し眉をひそめ、薄暗い中、相手をすかし見ていた。
「大分不安定みたいだな。…どっちだかしらないが、口達者な奴のほうが出て来いよ。話し合いをしようぜ」
イェームは、刀を抜き放った。太陽の残光を残して、刃は妖しい妙な輝きを残す。とうとう皆既食が起こったが、火柱のせいで世界は薄暗く見通しがきいた。ただ、見るものすべてが炎の赤い色を映していて、それは不気味な風景だったかもしれない。
妖魔は、その輝きを見ながら嘲笑した。
「刃をもって話し合いとは笑えるぞ。…礼儀知らずだな」
「あんたが誠実な奴ならやらなかったさ」
イェームは憮然として答え、刀の柄にもたれかかる。
やり取りを少し見やってからレックハルドは再びファルケンの様子をうかがった。口元から血が流れているのが、気になり、レックハルドは心配そうにいった。
「…口の中を切ったのか?」
「口の中だったらいいがな。…医者に診せた方がいいかもな。とはいえ、狼人は丈夫だから大丈夫か」
ダルシュがそんな事を言うので、レックハルドは少しむっとしてダルシュを睨んだ。
「ファルケンをお前みたいな奴ほっといても死なんような奴と一緒にするな! 確かにファルケンのやつは丈夫だが、お前ほど鈍にできてねえんだからな! こいつがかわいそうだ!」
「なんだと! けが人になんて口ききやがる!!」
起き上がって元気に文句を言うダルシュを見て、確かにけが人だと思う者は少ないだろう。彼の左手から血が滲んではいるし、痛そうなのは痛そうなのだが、本人の態度を見るとレックハルドは同情する気すらうせるのだった。
「お前みたいな頑丈なやつはけが人なんていわねえんだよ! おまけにべらべらしゃべりやがって! 目障りだ! できるならすぐ失せろ!」
「なんだあ! 目障りだと! オレだって一生懸命やって…! 大体こいつを助けに入ったのはオレ……」
ダルシュがそこまで言いかけたとき、イェームの緊迫した声が二人の会話を断った。
「妖魔をひかせろ!」
ハッと二人が見つめる先で、イェームは先ほど抜いた剣を地面に立てたまま、それにややもたれる形でたたずんでいた。
「あんたがあいつらを呼んでることはわかってるんだぜ? いい加減に奴らを散らせろ」
静かに命令調の言葉で言うイェームに、シャザーンの中の妖魔は少しうろたえる。
「…誰だ。お前は…。狼か?」
「別に答える義理はないが、まあ、その仲間の内ではあるな」
イェームは続ける。
「俺が言いたいのは、ここで血で血を洗うような事をすれば、あんたも困るってことだ。今なら、司祭連中が嗅ぎつけていっせいにここに来るぜ? さすがのあんたも今、やつらに集結されると困るだろ?」
一息置いて、彼は笑いながら言った。
「俺も嫌だしな」
妖魔は、ふと笑みを刻んだ。
「脛に傷もつ身のようだな…」
「お互い様だ」
妖魔は、軽く腕を組み、イェームを見つめてから口を開く。
「いいだろう。お前の言っている事ももっともだ。確かに、今のままでは、司祭
(
の連中が乗り込んでくると、私も持ちこたえる事はできない」
「わかっているなら早い話だ」
妖魔は、ふっと冷たい笑みを浮かべると、右手を上げた。
後ろで見ていたダルシュが、上空を見上げて気持ち悪そうに言った。
「な、なんだ、あれ」
「なんだって、…何もいないだろ。日蝕か?」
続けて上を見たレックハルドだが、上空といっても皆既日食を起こした太陽が、不気味に周りのコロナだけを光らせているのしか見えなかった。
「お前には見えてねえのか! あそこに化け物がうじゃうじゃいるじゃねえか!」
不満そうにいうダルシュの言葉で、レックハルドはようやく気づいて、嘆息混じりに言う。
「お前、案外色々見えるんだな。…節穴のわりに」
「なんだっ…」
「オレには見えないが、あいつが呼び寄せた手下を回収してるんだろ?」
喧嘩を売りかけたダルシュは、レックハルドに言われて唸る。
「そ、そうかもな! よくわかんねえ化け物ばっかりだが」
「だとしたら、シャザーンは要求を飲んだってことだな」