辺境遊戯・幻想の冒険者達/©渡来亜輝彦2003

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第一章:旅の始まり

 
第二話:レックハルド
 時は夕刻。おそらくそうだったのだろう。辺境の森の謎の木々の間から見える狭い空は、もう赤い色をしていた。
「今日中につけるんだろうな」
『夕方になると人喰い植物が目を覚ます。』裏のない、この環境では大いにあり得るファルケンの一言が、レックハルドに引っかかっていた。
「だいじょーぶだ。すぐにつくって!」
「楽観的だなぁ。おまえは……」
「あ!」
 突然、大声をあげるファルケンに、さてはまた変な物を見つけたのかとレックハルドは首をすくめたが、次の彼の言葉は、レックハルドにとっては大変ありがたい言葉だった。
「ベレスに出たぞ!」
 その声につられて、ファルケンを押しのけ手前に出ると向こうに街の屋根がはっきりとみえていた。
「や、やったぁ!!!」
チラリと見えた、街の紅い屋根があれ程嬉しかったことはレックハルドの今までの人生では初めてのことだったかも知れない。

 
 明日から商売をすることにして、安宿に一泊する。野宿でも良かったが、さすがに道連れをつくっておいて初日に野宿なんてやると、相手が逃げそうなので一応宿を取ることにしたのである。もっとも、ファルケンがそのくらいで逃げ出すタイプとは思えなかったのであるが、レックハルドとしてもやはり野宿よりは屋根のある場所で眠った方がいい。
「おまえは何やってるんだ?」
 不意にレックハルドは尋ねた。ファルケンは、ああ見えて結構金を持っている。商売をしている気配はないし、生まれつきの金持ちだとはどうしても思えない。
「たとえば、傭兵とか用心棒とか?」
「そんなおっかない商売はやらないよ」
靴の紐をほどいて、それを脱ぎ捨てながらファルケンは応える。
「え〜!そうなのか!お前ぐらい体格と腕があったら、ぜーったいにそう言う商売は儲かるぜ。惜しいな。オレだったら、間違いなくそっちの方を選ぶけどな」
今日あったばかりだというのに、つきあって十年経っているような友達のような大変なれなれしい口調でレックハルドは言った。ファルケンは、そのなれなれしさに嫌悪など示さず、にこにこ笑って応対する。
「オレは、猟師だ。捕まえた動物の肉とか皮とかを売ってることもあるし、薬草を採ってきてそれを売ってることもあるんだ」
「そうか。で、辺境にも出入りしてるんだな?」
「ああ!辺境は、特に薬草の宝庫だからな」
マントを窓の外ではたいておいて、ファルケンはちゃんと(といっても、畳み方はグチャグチャだが)それを荷物の方にしまっておいた。確かにかなり旅慣れているといった感じである。
「でも、それじゃあ、旅する必要なんてないじゃないか?辺境のほとりにでも小屋を構えてさ、時々里にでも下りて商品を売ってれば……」
「それが一番良いんだけど」
 不意にファルケンの顔から笑みが消えた。
「長いこと住むと、周りの人が嫌がるからな」
「?」
 レックハルドは、訝しそうに彼の顔をうかがった。突っ込んだことを訊こうとしたが、ファルケンの方がふと思い出したように、こう尋ねた。
「そうだ!レックはどうして商人になろうと思ったんだ?」
「……何回言わせるんだよ!さっきも言ったろ!」
どうしてこう人の話をきかないんだよ!と付け加えて、レックハルドは片手で髪の毛をぐしゃぐしゃとかき乱す。
「オレがだな、世界で多分一番綺麗で純粋な人なんだろーなーとおもうマリス嬢に出会ってだな、いい加減まともな生活して立派な人間になってだな・・」
言いかけたとき、ファルケンが口を挟んだ。
「それはきいたぞ。そうじゃなくって、どうして借金を踏み倒して借金取りに追われても商人になりたいのかなぁと思ったんだ。お金なかったのか?」
 すっかり見抜かれていた事を知ってレックハルドは、ぎくりとした。
「……う。お前、知ってたのか?」
「オレは嘘と嘘じゃないことを見抜くのは得意なんだ。目を見れば全部わかるんだぞ」
ファルケンは得意げに言った。
「でも、レックが悪いヤツじゃないのは、見ててわかったからな。だから助けたんだ。でも、お嬢さんとお話しするだけなら、他にも方法があるだろ?」
「それが出来ないから、ああいうことをしたに決まってるだろ」
「何で?」
「そう矢継ぎ早に訊くなよな」
 レックハルドは、一反ファルケンの口を止めてからごろんとベッドに横になった。 「つまりだな、オレはあまり褒められた職業の人間じゃなかったんだ。だ・か・ら、お嬢さんとお話しようとしても、多分不審者ってことでボディーガードに体よく始末されるだけなの。大体、毒矢が飛んできたからな。話すどころじゃねえ」
「褒められないって?」
「……確実な答えを求めてくるのな、お前って。つまり、なんていうか盗賊って言うか、スリって言うか、巾着切りっていうかだな」
「捕まったら、吊されるっていう職業だな〜」
「いちいち、具体的に説明するなよ!気分が良くないだろがっ!!」
一通り突っ込んでから、がばっと起きあがってあぐらを組むと、その上に頬杖をついた。
「で!有名になるかなんかすれば、機会だけはあるわけだ。それで考えたのが、商人なの。幸いオレは口が立つし、商店街で過ごしたこともあるから門前の小僧何とやら。つまり、商才は、ないわけじゃないと自分で分析できたわけだ。他の仕事は多分、全滅だからな」「他の仕事?」
「力仕事」
 少し恨めしげにレックハルドは、ファルケンを眺めた。
「そりゃあなぁ、お前みたいに強かったらオレも戦士になろうかなぁと思うけど。戦士っていうのは、力さえあれば名声がどんどん上がるし、護衛とかかこつけて、お嬢さんにあえたりしそうだけど。オレには、むいてないからさ。オレは、昔ッから喧嘩には自信が全くないんだ」
「向いてないことをすると不幸になるって占い師のばあさんが言ってたぞ」
「だーかーら、向いてる商人を選んだっていってるだろ!話が終わるまで口挟むなよ!」
 レックハルドは、大きくため息をついた。
「でも、借金踏み倒したのはわざとだろ?」
「ち〜・・。そこまで見抜かれてたのかよ」
ファルケンに痛いところをつかれて、レックハルドは顔を背けた。
「だって、ああいう所から借りても返しきれるわけないだろ!悪徳高利貸しなんだから!だからって、オレみたいな怪しげな若造がまともな銀行から金かしてもらえたりはしないもんなぁ。どうせ、相手は悪党だし、ちょっとぐらいいいかな〜って」 「借りたモノは返すのがルールだぞ」
 ファルケンは、となりのベッドに腰を下ろした。
「なんなら、オレが手伝ってやるからそれで返せばいいだろ?」
「いつになるかわからないからやだ。だいたい利子が高いしな」
レックハルドはぶつくさと文句を言い始めた。
「オレ、利子がどうとかっていうのはよくわからないけど、借りた分だけかえせばいいじゃねえか」
「世間様はそんなに甘くないんだよ」
 逃げ込みを決めている自分も相当甘いのだが、その辺りのことに彼は突っ込もうとはしない。ふと、思い出したようにファルケンが手を叩いた。
「じゃ、オレが今持ってるお金をレックにやるよ。ちょっと足りないかも知れないけど、一旦、これで払ったら借金取りは帰るかも?」
 ファルケンは、固くしめた荷物から、ジャラジャラとなる重そうな袋を取りだし、レックハルドの方に手渡した。いきなり渡されて、その重さに堪えかねてレックハルドは不覚にも袋を落とす。
「お、重たっ!!な、何入ってんだ!?」
「だから、言ったろ。オレが今持ってるお金」
 ファルケンに言われて、慌てて袋の口を開ける。中には、金貨がジャラジャラと入っていた。
「お、おいおい……。こんなのを昔童話で見たことがあったけど……」
「偽物じゃねえ。本物だぞ」
 手触りは確かに金だし、噛んでみるがちゃんと本物らしい感触がする。
「ど、ど、どうしたんだよ!!これは!!!」
今はとにかく、どうしてこのファルケンが大金を持っているのかが気になる。
「あぁ、それはな〜、オレがここのところずーっと薬草を売ってた分のお金だ。あまり、お金使わないから」
「食費とか色々あるだろう」
「食べ物なら、自分で探すし、油だって植物からとれるんだぞ。要るものは、そうだなぁ。服とかぐらいかな」
「……こ、これ……オレがもらってもいいのか?」
「オレ、あまり要らないから」
 ざっと数えたててみるが、彼の借金を返してもまだ相当余るぐらいの大金だと思われた。
「そうか……」
レックハルドは、釈然としないような顔をしながらも、目の前の金色の輝きにはかなり心を揺さぶられているらしかった。
「・・じゃ、とりあえず……」
そういうと、彼は重たいその布袋を引き寄せた。
 
 三日月がのぼっていた。昼間は時々、日蝕が起こっているというのに月食の方は、それに比べて余り起こらないようだった。おかしなことだとは思ったが、それについて追求したいとはレックハルドは思わない。
「ばーか。非常識野郎」
 レックハルドは、天井をむいたまま、ぶつくさと文句を言った。もちろん、言っている相手は、横のベッドで幸せそうにぐっすりと眠っている大柄の男にである。二メートル近い身長の彼は、ベッドに収まりきらずに、足がひょっこりとベッドから出ていた。
 レックハルドは眠れないらしく、ひたすら狭いベッドで寝返りばかり打っていた。
 彼としたことが、ファルケンに大金をもらったという事実が妙に引っかかって仕方ないのだった。普段なら、大金を持っていそうな相手に近づいて、その財布を根こそぎひっぱってもっていくぐらいのことは平気でやるし、そのことに疑問や罪悪感を感じることはあまりなかった。そうすることが、今までの彼の生活を支えていたわけであり、日常の一部でもあったからである。
 今回は、別に罪の意識を感じるような事ではないし、ただ単に儲けを得ただけのことであっただけなのに……。どうも、すっきりとしない。何かが胸につかえておりてくれないのである。
「ちぇ……。なんだよ、オレらしくもない」
 不機嫌に呟いてみる。このまま、金を持ち逃げすることもできる。あれだけの大金があったら、愛しいマリス嬢にいますぐお近づきになる手だても見つかりそうなのであるが。ちらっと横目で、その妙な相方を眺めてみた。
「まったく、変なヤツだな・・。こいつ」
深々とため息をついて、レックハルドは上布団を蹴飛ばした。
 
 次の日の午後、レックハルドはいつになく上機嫌だった。午前中から店を広げて、綿織物を売りさばいていたのであるが、値段が手頃だったのと、ベレスには若い娘が多かった為があったのだろうが、彼の商品は全て完売したのであった。彼の呼び込みのうまさと口のうまさのせいも多分にあったはずであろう。この様子だと、結構な利益があったようである。
「ははは〜!やっぱ、オレには商才があるね」
 ずっと傍で見ていたにも関わらず、ファルケンには商売というものがどういうものであるのかよくわかっていないらしい。
「……どうやったら、そんなにうまく売れるんだ?」
「見てなかったのかよ!はぁ〜あ、お前、商売人には向いてないな。よくそれで、あんだけ稼げたもんだよ。どっかでただ同然に買いたたかれたってことはないのかよ?」
「こまってるっていうから、あげたことはある。毛皮を十枚ぐらい。相手は喜んでた」
「当たり前だろ!そういうのを騙されてるっていうんだ!!」
レックハルドは、きつい口調でいって軽く頭をかいた。
「まぁ〜、いいや。オレが、お前に商売の基本っちゅーやつを教えてやるぜ」
そういって、なれなれしく、背の高いファルケンの肩を少し背伸びして叩く。
「商売の基本?」
「そうそう、オレ様の手並みをみてればそのうちわかるって!」
けらけらっとレックハルドは笑った。駆け出しの商人の割には、やたら偉そうと言うか、自信満々なのは、よほど自分の才能に確信をもっているのであろう。
「オレにもわかるかな?」
「今より多少ましになるって」
 ふと、レックハルドは思い出したように荷物袋に手を入れ、何かを取りだしたようであった。
「そうだ。ほら!」
いきなりそれを投げられて、ファルケンは慌ててそれを受け取った。何か紙のようなものが入っているらしかった。
「なんだこれ?」
「お前……両替ってーのを知らないだろ。あんな馬鹿重い金貨持ち歩いてるなんて、効率悪すぎだぜ。近頃は、紙幣っていう紙の金が流通してんだよ」
レックハルドは、そう言って頭の後ろで手を組んだまま、すたすた先を歩く。
「全部、紙幣に換えてやった。その紙幣、一枚であの金貨三十枚ぶんだからな!破るなよ!」 ファルケンは、袋を開いて十枚ほどを一束にまとめたものが詰められているのをみた。そして少し怪訝な顔をする。
「でも……、借金は返さなくていいのか?」
「借金の分は返すってば!つまり、お前がオレに金をかしてくれればいいんだ」
レックハルドは、強めの言葉で言った。
「でも、全部やるって言ったぞ」
「へん!苦労もリスクもなしに金持ちになるなんて、オレのプライドが許さねえ。あくまで借りるだけだぞ。いつかちゃんと返すからな!」
 ファルケンは、にっと笑った。
「そうか〜。意外にレックって、意地っ張りなんだなぁ」
「なんだよ、その言い方は……」
ムッとした顔をして、レックハルドは振り返った。
「馬鹿な事いってねえで、早く品物を買いに行くぞ!オレ一人じゃ持ちきれないほど、買うつもりなんだ!お前に持ってもらわないと、オレの方が困っるんだから」
「持つのはいいけど、何を買うんだ?」
「そうだなぁ、やっぱり布かな。食料品は、途中でダメになる可能性もあるしなぁ。とりあえず、背負えるだけ背負うぞ!めざせ!世界一の行商人!マリスお嬢様の恋人!」
「おー!」
 意気揚々としている二人の前に、数人の男が道をふさいだ。レックハルドは、そちらをむいて「あ!」と声を上げる。
「なんだ、昨日の借金取りのオッサン達じゃねーか」
「な、なんだと!てめぇえ!その口のきき方は!」
 一人が熱くなって、怒鳴りつける。街の道を歩いている人は怯えてまわりから遠ざかった。だが、昨日と違ってファルケンという用心棒がいるレックハルドは、いい気なものである。
「口のきき方って言われても、あんた達のききかたも大概じゃねえかよ。オレがなーんでそんな丁寧な口のききかたをしなくちゃいけないわけだよ」
肩をすくめて、生意気な表情を浮かべる。ひとえに、ファルケンが後ろにいるからこそできる横柄な態度である。
「小僧!いい度胸だな!」
「よせ!」
 熱くなる男を、あわてて隣の年長者らしい男が止めた。
「あ、そうだ!ちょうど返す金ができたとこだったんだ。ほら!これもって帰りなよ」
レックハルドは札束を三束ほど男達の方に投げた。
「借用書、破っといてくれよな」
 勝てるとわかると、人間いい気なもので、途端態度が変わる。十分神経は逆なでされているはずであるが、男達は、後ろのファルケンが恐いのか、積極的に手を出そうとはしなかった。札束を拾って、数え始める。
「おい、ファルケン行こうぜ」
 レックハルドは、ファルケンの袖を引っ張ってとっとと立ち去ろうとした。
「待て!利子分が足らんぞ!」
背中をむけた彼に、男が呼び止める。
「あんな違法な利子払う必要ないじゃないかよ」
「だからって貴様!」
「利子をとろうと思ったら、オレの友達をぶったおしてから言えよな!なぁ、ファルケン!」
言いかけた男の口を遮って、レックハルドはこれ見よがしに笑ってファルケンの肩を叩いた。だしに使われていることを知ってファルケンは、軽くレックハルドを睨んだ。いくら鈍いとはいえ、この状況でこんな言い方をされるとその思惑ぐらい見当がつく。
「レック・・」
「いいだろ。助けてくれよ」
ファルケンもそう言われると、見捨てるわけにはいかないので思わず協力してしまった。
「そうだ。オレが相手になるぞ」
 男達はひるんだ。昨日、瞬殺されたことは記憶に新しい。どう立ち向かっても、勝てるとは思えない。
「わ、わかった。借用書はこれだ。受け取れ」
「ちょ・・何考えてんだよ!兄貴!」
年長者のリーダーの決定に、男が噛みつく。だが、リーダーは、その男を完全に無視をしてレックハルドの足下に借用書を投げた。ひらひらと、それは彼の足下に落ちる。
「じゃ、ありがたーくもらっとくよ。いこーぜ!ファルケンッ!」
「あ、待てよ〜!」
 にやにや笑いながら、レックハルドはファルケンをせかして歩き始めた。機嫌の良さを示すかのように、足取りは大変軽やかだった。
「畜生!虎の威を借る狐め!!」
 くやしそうに男達は吐き捨てた。
「兄貴!どうして素直に言うこときくんだよっ!」
「馬鹿言え!昨日、あんなにさんざんにやられといて!」
「だけど!」
「馬鹿が!よく見れば、あの後ろにいる金髪の男は、人間じゃねえじゃねえか」
リーダーは腕組みをして、去っていく二人を眺めていた。
「そうだぜ。顔に血みたいな赤い色を塗ってて、あの化け物のような強さとくれば、あいつは……噂に聞く辺境の〜……」
さぁっと弟分達の顔が青くなる。兄貴が何を言ったのか、その断片的な言い方でもよくわかったのだった。そして、その言葉が示す脅威も。
「そ、そんな……あの化け物が辺境の外の世界で、一人でいるなんてことぁ・・」
「だから、わかんなかったんだ!辺境で奴らをちらっと見かけたことはあるから、あの格好は間違いねえ。だけど、まさか外の世界にいるだなんて……しかも一人で!それにしても、化け物と付き合ってるあの小僧の気もしれねえ」
 兄貴は悔しそうに言って、レックハルドから受け取った金を荒々しく鞄のなかに突っ込んだ。
 
「レック……。またそういう脅しみたいな……」
 ファルケンは、呆れた目でレックハルドを眺めた。だが、レックハルドの方はけろりとしたままである。
「馬鹿〜。目には目をっていうだろ。あぁいう脅し好きの連中には、もっと恐いヤツを押しつけるのが一番いい手なんだ。その辺が、まぁ、生活の知恵ってやつかな〜」
はっはっは。とレックハルドは笑う。
「それにしても、お前はいいよなぁ。やっぱ、人間見かけがごっついと特だね、特!」
「そうでもないぞ。怖がられるし」
「なめられるよりましだろ。オレなんか、こんなんだからよ〜。いっつも損ばっかりしちゃって」
 ファルケンは、そのレックハルドのとめどない不平をなんとは無しにきいていたのだが、急に思い出したように吹き出した。
「な、なんだよ!何笑ってんだよ!」
「やっぱ、思った通り、レックはいい奴だなぁ〜。うん、そうだと思ってたんだ」
「馬鹿だな。そういうこといってっから、いつまでたっても騙されるんだぞ。変なヤツだな、お前は〜」
レックハルドは、別に感傷的な気分になるでもなく、そう素っ気なく応えた。そして、我に返って周りを見回すと、いきなり大声をあげたのだった。
「……あ!しまった!店を通り過ぎちまったよ!はい!そこで回れ右!品物を仕入れなきゃ、話にならねえ!」
 慌てて走り出したレックハルドにつづいて、ファルケンも後を追って走り始めた。
   

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