第六章:ミメル
「何だよ、こんな奥まで」
レックハルドはむっつりとしていた。
「この前からおまえちょっとおかしいんじゃないか?」
外で商売がしたいレックハルドは、不満があったのだった。辺境の中に商売のあてなどないに決まっているのだから。
「そういうなってば。ちょっと中に用があるんだ」
「用って何だよ?」
不満そうなレックハルドを宥めようと、ファルケンはそっとこういう。
「お金になる薬草を後でとるから。今日の売り上げ分は埋め合わせるよ」
「そういうことは先に言え!」
途端手のひらを返したように表情を和らげ、レックハルドは半ば走ってファルケンのほうまで駆け寄った。
「で、いくらぐらいの儲けを見込んでるんだ?」
「…具体的にはよくわかんないけど、オレが昔やったときは袋一杯で毛織物三枚と交換だった」
「うん、まぁ悪くないな」
レックハルドはぱちんと手を打った。
「よし、今日はお前に付き合ってやろう」
「え!ホントにいいのか?よかった」
ファルケンは少し安堵した表情を浮かべた。
「で、ホントは何のようなんだ」
「えーと、今日はオレを育ててくれたおねえさんを紹介しようと思って」
「お姉さん!?お前、家族なんかいたのか?」
ファルケンは難しそうな顔をした。
「…オレたち狼人とか妖精は基本的に家族って言うものはないんだ。狼人は群れ、グループに分かれてそれぞれのテリトリーで暮らすし、妖精も妖精で暮らすし…。ただ、子どもの時は、妖精が育てるのが普通なんだ」
「つまり、お前がガキのとき、世話してくれたねーちゃんってことか?」
「そういうこと」
ファルケンは笑った。
「ちょっと、この前の事もあるし、辺境の様子を聞いておこうと思ったんだ」
「なるほどな」
レックハルドは上の空だった。本当は、ファルケンのいう育てのねえさんというものがどういう子なのかというほうが気になっていたのである。
「あっちにいると思うんだ」
ファルケンは更に奥を指差す。
「いいけど、戻ってこれるんだろうな」
「オレは狼人だぞ。…迷ったりしたら、物笑いじゃないか」
ファルケンが少し憮然として言う。
「まぁ、それはそうだな」
「あ、レックの後ろにベドルーダー!」
ファルケンがいきなりポツリと言ったので、レックハルドは慌てて前に飛んで逃げた。彼の足があった辺りを、巨大食虫植物のベドルーダーのつるがかすめていく。
「あ、あぶねえ」
後ろをあらためて振り返ると、六mはある茎のうえに、赤紫の斑点のある紫色の巨大で毒々しい花が地面を見つめていた。大型動物、例えば人間ですら食べてしまうという噂のベドルーダーは、時々つるを伸ばして積極的に獲物を捕食しようとたくらむ。全く、油断もすきもない花だった。
「レックもだいぶ辺境になれたよな」
ファルケンが満足そうに微笑む。
「馬鹿!笑い事じゃねえんだよ!これから奥にいくとどんどんこんなのが増えるんだろ!」
ファルケンに言わせると、辺境は奥に行けば奥に行くほど、おかしな者達がわさわさと湧いて出てくるという。それを想像して、レックハルドは思わずげんなりとしてしまった。
「大丈夫。今日はそんなに奥にはいかない」
「…あ、そう。なるべく早くな」
「ああ」
といいかけて、ファルケンは前の方に何かを見つけたようだった。彼の顔に喜色が満ちる。
「ミメル!」
ファルケンはレックハルドを半ば置き去りながら、走り出した。
「あ!こら!待てよ!オレを置いてくな!」
用心棒兼案内人とはぐれた後の辺境への侵入者の運命は悲惨だ。慌てて後を追い、木々を抜ける。いきなり目にキラキラと陽光に輝く、大きな湖が飛び込んできた。
その水面に、一人の少女が立っていた。あのロゥレンという子のように、少し垂れ下がった長い耳に、虹色に輝く羽をもっている。年は十六ぐらいだろうか。そのぐらいに見えた。妖精と見て間違いない。
彼女は振り返り、大きな目をもっと大きく見開いた。薄水色とも、薄緑ともとれる瞳に緑がかった金髪は肩の辺りまでで、少しくるりと巻いていた。頭に花が一輪さしてある。
「ファルケンちゃん!」
少女は笑った。なかなか可愛い感じの少女だった。ロゥレンとは違い、厳しさや険とは無縁な素直な表情をしている。
「ミメル、こんなところにいるとは思わなかった。もっと、奥かと思ったんだ」
ファルケンは少し照れたように笑った。
「うん、久しぶりに湖の様子を見にきたんよ。ファルケンちゃん、元気そうやね」
ミメルは、優しそうに微笑んだ。かなり、シェレスタなまりがある。シェレスタは、カルヴァネスの東、レイベザルクの商業地のなまりだった。この辺りをよくシェレスタ生まれの行商人が往来しているので、その言葉をきいてうつったのかもしれない。
「ああ。ミメルも元気そうでなによりだ」
ファルケンがやたら滅多にニコニコしている所で、後ろからにゅっと手が伸びてきた。
「雰囲気ぶち壊して悪いがな、…オレの事はほったらかしか?」
「あ。レック」
ファルケンは悪気のない顔でレックハルドを見た。
「ミメル〜、紹介するよ。こっちはレックっていって、オレの友達なんだ〜」
「今、一瞬忘れてたろ」
レックハルドは、あきれた様子で言った。
「へえ、そうなんや。うちはミメルいいます。よろしくお願いしますね」
「こちらこそ、レックハルドです」
言いながら、レックハルドはファルケンをつっついた。
「おい、おねえさんてこの人か?…年下に見えるが…」
「狼人と妖精は成長の仕方が違うんだ」
「…あぁそう」
辺境の事で一々驚いても仕方がない事を心得ているレックハルドは素直にうなずいておいた。
湖のふちに腰掛けて、しばらく談笑する事にした。
「レックはとってもいい奴なんだ」
ファルケンの「例」の紹介が始まる。いい奴呼ばわりされるのに何となく抵抗がある、レックハルドは、うっとおしそうにそれを見やるが止める事はしない。
「へぇ、じゃあ、ファルケンちゃんはレックはんと当分一緒に旅をするつもりなんや」
「うん」
ファルケンは照れたような顔をしていった。
「…オレが狼人でも、一緒に旅してもいいって言ってくれたんだ」
「ホントにいい人なんやね。レックはんって」
ミメルは、レックハルドに純粋に微笑みかけてきた。引きつった笑みを浮かべつつ、どう応えればよいものやらレックハルドは困った。
「あ、そういえば、喉が乾いたやろ。おいしい水とってきてあげよか?」
ミメルが不意に言って立ち上がった。どうやら、湖の水は飲み水としては使わないらしい。辺境に住まうものたちは、ある意味では贅沢な考え方をしているので、湧き水でも取りに行くのだろう。ファルケンが、近くになっている貧弱な果実より、なるべくおいしい果実を遠くまでいって取ってくるのと同じである。
レックハルドは、困った返事を返す必要をなくしてかえってホッとしていた。かわりに慌てたように立ち上がったのは、レックハルドの横にいたファルケンである。
「あ、そんなことはオレがっ!オレがするよ!」
ファルケンがいつも以上にフットワークが軽いのを横目でみながら、レックハルドはほほうとばかりににやついた。こんな気のつく男ではなかったのだ。レックハルドの前ではみせないような甲斐甲斐しさ。その理由を悟るぐらいレックハルドにとっては、簡単な事である。
(意外だな。…ファルケンの奴の好みはこーいうタイプだったのか!あのロゥレンって子になつかなくて、マリスさんとうまくいってるのはそういうわけか)
ファルケンは、すでにそこから遠ざかりながら、うきうきといった。
「すぐに水汲んでくるから。あ、レックと一緒に話をしてくれてればいいよ!」
「オレはおまけみたいな言いようだな」
言われてファルケンはあわててそれを否定する。
「そんなんじゃないよ。レックは大切な…」
「あぁ、わかった。わかったから、行って来い」
どうも辺境の連中はこうやってからかってやると、本気にとるのでおもしろい。
「じゃあ、行って来る!」
そういいおくと、ファルケンは茂みの向こう側に飛び込んですぐに見えなくなった。
ミメルが不意に笑い出した。
「あの子、いっつもあぁやねん。うちの前やとちょっと慌ててたりして」
「なんか、わかりやすいなあ」
「あの子は素直な子なんや」
どうも、この子も意味がよくわかっていないらしい。レックハルドはため息をついた。
彼のあきれたような態度に気づいていないらしいミメルは、レックハルドのほうを見ながら言った。
「あのなあ、ファルケンちゃんが、人間の子を連れてきたんは今回が初めてなんやで」
「…そうなのか?」
「うん。今まではずっと一人できてたんや。レックはんの事信頼してるんやわ。うちにはちょっとわかるねん」
「そ、そうなのかな。オレにはあんまりよくわかんないんだけどな」
レックハルドは以前も同じような事を言われた事を思い出した。
「うん、間違いないわ」
ミメルは自身満々に言った。それから、打って変わって少し目を伏せて、寂しそうにつづける。
「あの子な…辺境から追放されたとき、すごくショックやったみたいで立ち直れるんかって心配してたんやけど、うちの取り越し苦労やったみたいで」
「追放?ど、どうして?」
レックハルドは、びっくりして少し慌てて聞き返した。
「何にもきいてないのん?」
「…そういうことは、オレも聞かないから…」
ミメルは、そっとうなずいた。
「そうなんや。…うちの口から言うのもなんなんやけど…あの子は、狼人の中ではちょっと特殊やから…」
「特殊?」
「…うん、後はファルケンちゃんに直接聞いたほうがええと思うんやけどね」
「……」
レックハルドは黙り込み、ミメルの些か幼く見える横顔を見た。そうしている間に沈んだミメルは、瞬時にぱっと笑顔を浮かべた。この空気を振り切るためだったようだ。
「ま、ファルケンちゃんが追放されたのは、もう五十年以上昔の話やけど」
「ご、五十年?て…あ、あいつ、オレより年上なの?」
レックハルドが思わず聞き返す。ミメルは首をちょこんとかしげた。
「あれ?しらへんかったのん?ファルケンちゃんは今年で七十二歳やで」
「……そういう話は…きいてなかったから。長生きするのは知ってたけど、まさか年上とはだな…」
「といっても、狼人の中じゃまだ子どもなんや。狼人は千歳を越えた辺りで一人前になるんやから」
「そ、そんなに長生きなのか!?…?」
レックハルドはさすがにそこまで知らなかったので思わず大声になっていた。
(人生経験はともかく、アイツの方が年上だったんだな〜…長生きだって事は知ってたけど…)
「うちら妖精とはちごうて、狼人は一気に成長してしもうてから徐々に心が大人になっていくんやで。ファルケンちゃんは、それでも狼人の中やったら随分大人やけどな」
「お、大人ねえ…」
レックハルドはどう応えたらよいものやら困り曖昧に相槌を打った。
「…あんたみたいな人がそばにおってくれて、うちは安心やわ」
レックハルドは、冷や汗をかいた。あんな事情まで聞かされて、当初、利用する気満々で、今も出来うる限り利用しようと思っているとか、そういう本音など出せるわけもない。居心地が悪すぎた。
「…そ、そう」
レックハルドはやはり曖昧に返し、乾いた笑みを浮かべた。
湧き水を容器に汲みながらファルケンは、ひとりべらべらとしゃべっていた。
「そうか…。あちらこちらで、森がかれてるって本当だったんだ」
「はい。そりゃあ、もう、ひどいもんですよ」
茂みの中の影が言う。
「…兄貴、しばらくこちらに来ていませんでしたね」
「あぁ、最近は、ちょっと足が向いてなかったんだ。日蝕が起こるからなんかあるとは思ってたんだけど」
ファルケンは、容器に水を汲み終えて、それをそばにおくと、自分は手で水をすくい、一口、口に入れた。
「……シャザーンってのは、ホントは何者なんだ?オレはよく知らないんだ」
がさりと音がして、茂みから影が姿を見せる。赤いたてがみの狼だった。辺境狼に似ているが、少し体が小さい。精悍な顔つきをしていて、尻尾の毛がふさりと長めである。おそらくタクシス狼と呼ばれる種類だろう。タクシス狼は、賢きものと呼ばれている、辺境固有の狼である。大人しい性格をしているといわれ、辺境狼とは対立関係にあった。
「すいません、兄貴。あっしもよく知らないんで」
まるで、ばくち打ちの弟分のような口のきき方である。驚く事にこの言葉は、彼の前に座ったタクシス狼の口からでていた。
「謝らなくていいよ、ソル」
ファルケンは言う。
「誰に聞いたら一番よく知ってるだろう。司祭
の人達はオレを嫌がってるからとても訊けないだろ?」
ソルは少し考え込むような素振りを見せたが、思いついたように顔を上げた。
「…レナルの旦那にきいてみてはいかがでしょうか」
「レナルに?」
ファルケンは失念していたとばかりに顔を上げた。
「そっか!レナルならきっと何か知ってるよな!ありがとう、ソル」
「いいや、あっしは兄貴には色々助けてもらった恩がありますから。兄貴のためなら、いつでもお役に立ちますよ」
ソルは冷静に言ったが、ファルケンを慕っているのは本当のようだった。
「でも、レナルは今どこにいるかわかるか?レナルは、やけにテリトリーが広いから」
ファルケンは再び困った顔をする。
「それは困りましたね。…確かに、あのグループは移動距離がとてつもないですし」
「…それが困るんだよな…。あ!一ついい手があるかもしれない」
ファルケンは顔を輝かせた。
「占い師のシェイザスっていう人がいるんだ。あの人ならきっと…」
「なるほど、その手はいい手かもしれませんね、兄貴」
「あぁ。今度、レックとちょっと相談してシェイザスを見つけてみる事にするよ。あ、じゃあ、オレ、ミメルも待ってるし、戻るな」
「気をつけてくださいよ。ここんところ、変な空気が漂っています。兄貴は強いですが、気をつけるに越した事は…」
「ああ、気をつけるよ。お前も気をつけろよ、ソル。今日はありがとな」
ファルケンはそういうと、容器を抱えて立ち上がり、駆けて行った。ソルは彼の姿が消えるまでずっと見送っていた。
シャザーン=ロン=フォンリア。そう呼ばれていた青年は、辺境の森の緑の中をゆっくりと進んでいた。草の匂いが立ち込めている。
「オレが邪魔だったんじゃないのかぁ〜?」
人の声が聞こえ、さっとシャザーンは身を隠す。いつぞやの商人と狼人の二人組みだった。
「なに言ってるんだよ!そんなわけないって!」
ファルケンは、レックハルドが本気で気を悪くしていると思っているらしく、必死でなだめようとしていた。
「怪しいなあ、うん怪しいねえ」
レックハルドのほうは、単にからかって遊んでいるだけのようなのだが、ファルケンはまだわかっていないらしく、慌てていた。二人はそのまま、何か言い合いながら言ってしまった。シャザーンは、少しため息をついて、また奥への道を歩き出した。
湖があった。そこに妖精が一人座り込んでいる。シャザーンはようやく、安堵したように微笑を浮かべると、穏やかに彼女を呼んだ。
「ミメル。久しぶりだな」
ミメルは慌てて振り返った。
「クレーティス!」
ミメルは驚きのせいもあって叫んで、彼の元に駆け寄った。
「心配してたんよ。最近、クレイの噂もきかへんし、どこでどうしてるんやろかって」
「それは悪かったな」
シャザーン…クレーティスは、心底反省したような顔をする。
「連絡しようと思ったんだけどなかなか中にこれなくて」
「別に責めてるんやないんやから、そんなまじめな顔せんといてえな」
にこりと人の良さそうな微笑を浮かべ、ミメルは言った。
「クレイは元気やった?」
「ああ、おかげさまで」
クレーティスは穏やかに笑った。
「ミメルも元気そうで何よりだな」
「うん」
ミメルは微笑み、クレーティスを見上げる。
「今日は懐かしい人と一杯会う日やわ。さっきも昔馴染みとおおたばかりなんよ。今見送って、帰ってきたところやねん」
「そうかぁ」
クレーティスはのんきそうな顔をみせた。
「…今日はどうしたん?」
「久しぶりにミメルに会おうと思って帰ってきたんだ。…心配かけたと思って」
「そう。じゃあ、しばらくここで色々話聞かせてや。外の世界の事、人間の事。うち、色々しりたいねん」
クレーティスはミメルの無邪気な笑顔に、ゆっくりとうなずいた。
「ああ、わかったよ。ミメル」
「なんか、可愛い子だったな〜…。ホントにお前よりもあの子、年上なのか?」
レックハルドが不意に訊いた。外見ではそうは見えない。
「あぁ、ミメルはあれで二百歳ちょいだから、オレより百年ぐらい年上だよ」
「百年!?…それって…」
「うーん、難しいけど人間で言うと、五歳から十歳ぐらい年上ぐらいの感覚かなぁ」
人間社会をそれなりに知っているだけ、ファルケンにはその辺の感覚はある。
「お前は七十二歳だってきいたけど、じゃあ、あのロゥレンって子は?」
「あいつはオレより年下だよ。十歳ぐらい下だったかな」
レックハルドは、見かけによらないもんだなとぼそりとつぶやき、感慨深げに言った。
「なるほど…。年上好みか…お前」
「??何て?」
ファルケンが聞きのがしたらしく、聞き返す。
「いいんだよ。それよりもな、ファルケン…」
レックハルドが突然神妙な声でいったので、ファルケンは少し首をかしげた。
「何だ??」
「別にあの子に会いに行ったのだけが用じゃなかったな」
「…うん、まあ。…ホントはミメルにあった後で一緒に行こうと思ったんだけど、水汲んでるとちょうど目的の奴に会ったから話をしてきたんだ」
ファルケンは少しばつが悪そうなかおでいうが、レックハルドはそれ以上追求しなかった。
「まぁ、それならいいや。それよりもな」
レックハルドには、ファルケンの行動よりももっと気になる事があったのである。
「お前の好みはよーくわかった。オレが影ながら応援してやるが、あの可愛い子のことも考えてやるんだぞ」
ファルケンはそもそも言われている内容がわからないらしく、後頭部をかいた。
「…な、何が?か、可愛い子って誰だ?」
「気にするな。…万事オレに任せろ」
やけに面倒見のいいような事を言ってレックハルドは笑った。
「しっかし、お前も隅に置けないなあ〜」
「スミに…?…な、何が?」
ファルケンが要領を得ない返答を返すのを見ながら、レックハルドはにやりとしていた。
「…さあ、何がだろうなあ」
「…教えてくれよ〜」
ファルケンは困惑している。
「自分でわかるようになるまで待ちなって」
レックハルドは冷たく言って、ファルケンの背を軽く小突いた。
「…お前もホント、…侮れないよなぁ」
そういうレックハルドの顔は、からかいの色がはっきりと現れていた。
また、太陽が沈んでいく。いつの間にか、夕方になっていたようである。暗い森の中でも、空の赤い色が木々の間から見えていた。
「そろそろ、腹減ったな。そうだ、今日の夕食は、お前が作れ」
レックハルドは言う。
「やっぱり、辺境の森の野草の料理はいけるよな。タダだし」
ファルケンは、そうだなあ。とのんきに答え、今日の夕食の献立を考え始めていた。