辺境遊戯 第三部
第一章:闇夜の竜王-16
薄暗い空は、少しだけ明るくなりつつあった。ある程度のものの識別はつくほどの明るさはある。完全な日蝕と言うより、今回は不完全な日蝕だと言った方がいいのかもしれない。
日蝕の原因はマザーにあるといい、これは、天体のせいでおこる自然の日蝕ではない。ファルケンに昔訊いたところによると、マザーは黒いエネルギーを感じると、それを浄化しようと必死になるという。その浄化の為のエネルギーを蓄えるために、日光を必要とするらしい。だから、地上に降り注ぐ前に、その光をとりつくしてしまうので日蝕起こるのだそうだ。だとすれば、このように中途半端に曇るような日蝕が起こってもふしぎではない。太陽の前に、薄いが黒い雲がかかっているような感じがする日蝕が、今日は起こっている。
ひたすらに馬を飛ばしつつ、レックハルドは街の中を逃げ回っていた。いつの間にか、街のあちこちで悲鳴があがっていた。直接被害を受けたと言うより、上空を飛ぶものに恐怖心を呼び覚まされてのものだろう。だが、レックハルドにはそれを他人事として聞くだけの余裕はない。
「ちきしょう! 何だってオレがこんな目に!」
一番頼りになるファルケンもいやしない。他に助けてくれる人間がいても、こんな化け物相手に戦ってはくれないし、勝てないだろう。ついてない、とも思う。だが、ファルケンが行ってしまったのは、パーサに自分が冷たく当たったからで、ファルケンはそれのフォローに行ってしまった。竜が来たり、ヒュートに会ったり、それはレックハルドのせいとは言い切れないが、少なくともファルケンがいないのはレックハルドの悪行が祟った結果だ。
(……チッ、悪いことはするもんじゃねえなあ!)
レックハルドは心の中で吐き捨てた。どうも罰とやらが当たったらしい。あの優しくて可哀想な少女を傷つけたツケが回ったらしい。
(やっぱり、あんな事いうんじゃなかった! これからはもうちょっと口を慎もう)
レックハルドはそんな殊勝な事を思った。黒い強大な生き物に追いかけられながら、レックハルドは、彼を乗せている馬の首に軽く手を触れる。
「おめえも辛いだろうけど、頑張ってくれよ! じゃなきゃ、オレ達はそろってアイツの栄養決定なんだからな!」
そういって、レックハルドは更にスピードを上げるのに、馬を蹴った。すでに誰もいなくなった道の曲がり角の向こうは小さな路地になる。路地沿いに住んでいる人には悪いが、この際そんな事を考えている余裕はない。レックハルドは迷わず、狭い路地へと突っ込もうとした。そうすれば、このでかい竜は、入り込めない。角を急速度で曲がるのは危険だが、それは自分の運と腕次第でどうにかなる筈だ。
「行くぜ!」
レックハルドは更に馬を進めようとして、手綱を反射的に引いて体を横にのけぞらせる。前から鋭いものが飛んできて、レックハルドの頬をかすめるようにして通り過ぎていく。ザッと音がして、その二本めがレックハルドのターバンの布がわずかに削る。
素早くレックハルドは、それが飛んできた場所を探し当てた。今、彼がまさに進もうとしていた路地裏に、数人の気配があった。それが、弓を構えているのは、薄暗い中でも予想がつく。
「ちいっ! ヒュートの野郎、こんな時まで!」
レックハルドはそう吐き捨て、頬に手をやった。何か違和感を感じたのは、どうも少しだけ掠って血が出たらしい。それをぐいっとふき取って、彼はそのまま目を別の場所に走らせた。あの路地には入れない。だとすれば、別の道を選ぶほかない。あの路地が一番狭くてよかったのだが、残された他の道は比較的広いものしかなかった。
「ちきしょう! どこまでも、邪魔しやがって! あの根暗野郎が!」
レックハルドは悪態をつくと、軽く唇を噛んで覚悟を決めた。前からは矢が飛んでくる。だが、もう構わない。レックハルドは、身を低めて飛んでくる矢の中に飛び込んだ。
「てめえらああ!」
ヤケ気味に、レックハルドは路地にいる男達に叫んだ。矢をつがえながらも、レックハルドが飛び込んでくるのは予想外だったらしく、男達はわずかに動揺している・
「そこにいると死ぬぜーーー! どけえええ!」
揺れる世界の中で、男達が近づいてくる。その表情が焦りを帯びていた。レックハルドが、男達を踏みつぶしてでも通る気だと彼らは寸前になってようやく理解した。おまけに彼らからも、レックハルドの後ろから迫る竜の姿が見えている。
このままでは馬に蹴られて死ぬか、竜に食われて死ぬかだ。
「うわっ!」
浮き足だった彼らは、矢を射るのをやめて、すんでのところで中央の道をあけて両側に散った。レックハルドは、開けられた道を全速力で駆け抜ける。
「ヘッ、意気地なし!」
捨てぜりふにそう言い残して、レックハルドは遠ざかる背後をちらりと見た。もたつきながらも必死に逃げる男達と竜の姿が見えた。竜がこれで止まってくれればよいのだが。
そのまま狭い路地をひた走る。人気はない。向こうの方でも、何か破壊音が聞こえる。他の竜が暴れているのだろうか。
「ファルケンのやつ……!」
レックハルドは、ぽつりと呟いた。
「まさか、あっちでやりあってるんじゃねえだろうな?」
レックハルドがそう言ったとき、また風を裂くような音が聞こえた。だが、今度は矢ではない。もっと硬質な、なにか別の音だ。
「な、何だ!」
レックハルドは身を反らせながらそちらを向こうとしたが、何か光りのようなものが目に飛び込んできて、思わず目がくらみ、右手を手綱からはなして目の前に反射的にかざす。だが、その直後、レックハルドは青ざめた。
「やべえ!」
レックハルドは、瞬間的にまずいと悟ったが一瞬遅かった。光に刺激されたのか、馬がすでに暴れだしていた。
「うわっ!」
左手は手綱を軽く掴んだだけで視界はまだ霞んでいて、うまく抵抗することができない。レックハルドはそのまま、あっという間に暴れながら走る馬に振り落とされた。ぐるりと霞んだままの視界が周り、地面に叩きつけられる。衝撃を全身で受けて息が詰まりそうになりながら、レックハルドは、遠くに去っていく暴れる馬の馬蹄の音を聞いた。
「う、い、いって……」
馬の足音が随分遠ざかってからレックハルドは唸りながら身を起こす。痛みはさほどでもない。大したことはないだろうと思いながら、レックハルドはようやくはっきりしてきた目を馬蹄の響く方向に向ける。馬はすでに遠く向こうのほうにいた。
「い、今の光みたいなのは、……角度からして空から?」
攻撃のことを思い出し、レックハルドは空を見上げるが、そこには何もない。
「ちきしょう! 何だよ!」
ふらりと立ち上がりながら、打ち付けた肩あたりをおさえる。それほど大した怪我はしていないらしい。一安心して、歩き出そうとしてレックハルドは足を止めた。
背後からうなり声と、何か不気味な呼吸音をきいた。まさか、と思いながら、レックハルドは後ろに強大な影を感じる。振り返ってはいけない。だが、振り返らなければいけない。寒気を感じながら、レックハルドは喉を鳴らした。攻撃的な息づかいが後ろから響いている。レックハルドはとうとう意を決して振り返った。
何か凶暴なものと目が合い、生臭い息がふりかかる。レックハルドは声をのんだ。
レックハルドの数メートル前に、すでに竜が迫っていた。竜は金色の凶暴な瞳で彼を見ている。その狂気を含むような瞳に見つめられて、レックハルドは全身の血が凍り付いたような気がした。立ちすくむレックハルドを見つめながら、竜は思ったよりもすぐに口を開いて飛び掛かっては来ない。
だが、レックハルドがそれをいぶかしむ事はなかった。すぐにふしぎと見つめる世界がぼんやりとはっきりとしなくなってきて、意識がふっと薄くなる。竜の金色の二つの瞳が、まるで遠くに見える人家の灯りのように思えるほどに遠ざかっていくようだった。
竜には魔力があるという。だが、そのことを恐らくレックハルドは知らない。だから、この時、不意に気が遠くなった時にも、相手の幻術にはまったということを悟れる筈もない。理性は失っても、獲物をしとめるための手はずは失わなかったのだろう。竜は、人と話をする術を忘れても、相手を幻惑に落とす方法は忘れなかったのだ。
「……な、なんだ……」
ふわふわする感覚に、ようやくレックハルドはいぶかしんでぽつりと呟いたが、もう遅い。やがて、それを呟いたことさえ忘れ、竜が目の前で口を開いているというのに、彼は恐怖の表情を浮かべることすら忘れた。
彼の目の前にはある映像が浮かんでいた。それは見た覚えがないのに、なぜかとても懐かしい映像でもあった。
――ふふふ、ふふふふふ……
女の艶めかしい笑い声が、少しの狂気を含んで聞こえていた。ロゥレンに似た声だったような気もするし、マリスに似ているような気もしなくない。全く、一体誰の声やら思い出せない。それがどこから聞こえたのか、レックハルドはわからない。ただ、あの竜の瞳を見ている内に、深い意識のそこから呼び起こされるように聞こえてきた声だった。
――逃がさないわ……、あなたは「わたしのもの」……
獲物を目の前にした竜は、それを捕らえるまでの時間を楽しむかのようにゆっくりと動作していた。幻惑にかかってたたずんだままのレックハルドは動いていないし、逃げるはずもない。竜は舌なめずりをしながら、凶暴な赤い色の口を開き、徐々に近づいていく。
黄金の瞳が愉悦に踊る。その地点に近づく先程の馬とは違う馬蹄の音を、獲物をほぼ捕らえた満足で一杯の竜は、聞き漏らしていたのかもしれない。
建物の一角が崩れ、崩壊する。落ちてくる石から頭をかかえて身を守りながら、慌てて何者かが転がり出てくる。
「いってええええ! やっぱりダメだー!」
壊れた建物の影から飛び出てきたファルケンは、地面に転がりながらそんなことを口走った。
「ちくしょー! もうちょっとだったのに! 理性ないとかいいながら、結構頭いいんじゃないか!」
痺れて剣がもてなくなっているらしい右手を振りながら、ファルケンは左手に剣を握っていた。首もとを狙ったはずなのに、軽く体をひねられて、一番堅い鱗の所に剣が当たってしまったらしい。じんじんまだ痺れる右手も、振っているとようやく何かを握れるほどには回復してきた。
レックハルドがどうなっているのかはここからではわからない。無事でいて欲しいとは思うが、どんどん不安になっていく。
側に司祭の姿は見えない。どこかにいってしまったのか、ファルケンが竜に苦戦しているのを高みの見物しているのか、それはわからない。彼の姿が見えないことも、ファルケンが焦る理由の一つだった。
「くそっ! レックもやばいし、オレもやばいし、急いでるのにどうしよう!」
ファルケンは剣を握り直しながら、そう呟いた。逃げても、レックハルドが竜に襲われているのだから、そのまま行けば、同じ強敵が二匹に増えるだけになる。そうすると、レックハルドを守るどころか、自分も必死に逃げるので精一杯になるに違いない。ここは、どうしてもこの竜をどうにかしてから助けにいかねばならないのだ。
シャアッと風を引き裂いて、音と共に鋭いツメのついた右手がファルケンを襲ってくる。慌ててそれを避け、ファルケンは路上を走り出した。破壊された街には人気がなく、けが人の気配もない。比較的古い建物の多いここは、あるいはもとから廃墟に近くて人もほとんどいなかったのかもしれない。
竜の咆哮が後ろから迫る。それが怒りの咆哮なのか、それとも嘲笑の意図があるのか、それすらもわからない。
「そういや、オレ、は虫類は相手にしてなかったんだ!」
ファルケンは、逃げまどいながら嘆息をついた。
「あれ、あまり売れないし、食べ物に困ってなかったから獲物にしなかったけど、頑張って狩っておけばよかった……!」
せめてもうちょっと、特性がわかれば何とかなった気もしなくない。ファルケンは後悔しつつ、走り回る。だが、後悔していてもどうにもならないこともわかっているのだ。とりあえず、逃げてからどうにかしなければ。
きっと目をあげ、ファルケンは走りながら相手を見る。何かあるはずだ。このとんでもなく巨大で堅い生き物にも。無敵の生き物など、この世に存在しないことを、狩人であるファルケンは良く知っている。
と、不意に、ファルケンは足を止めた。それは、目の前に黒い影が飛び込んできたからだ。思わず剣に力を込めるが、その警戒は一瞬ですんだ。相手が誰だかはすぐにわかったのだ。
「あっ!」
飛び込んできた人影に歓喜の声をあげようと口を開いたファルケンだったが、一瞬の後にためらった。飛び込んできた相手は間違いなくその人に違いないが、恐ろしいほどに雰囲気が違う。おまけに、その背に黒い翼を背負っている。それが、彼が目の前に立ち止まってから、急にうっすらと半透明になっているようだった。
「ダ、ダルシュ……?」
ファルケンは、恐る恐る訊くように呼びかける。ダルシュとおぼしき人影は、彼の方ではなく、竜の姿を魅入られたようににらみあげていた。その瞳の色が、彼の知るあの気のいい荒っぽい青年とはまったくちがった。
「……だ、誰だ? なんか……いるんだろ?」
ファルケンは、ぽつりと訊いた。さすがに、狼人の彼にはわかるのだ。ダルシュの中に「何か」違うものがいることを。
いつもは赤いマントに、流しの戦士風の淡い色の武装に身を固めたダルシュだが、なぜか、その時彼の着衣は闇のように黒い。血色のよかった顔までが真っ白に見えて、まるで別人のように冷たい容貌をしているようにすらみえる。
その中で、いつもは暗めの茶色の筈のダルシュの目が、異様なまでに透き通った金色に見えていた。その目は人間の、いや、狼人の目とも違う。獣の目でもない。それは紛れもなく、は虫類の瞳だ。
『「ひと」が寝ている間に何という体たらく! 愚か者め! 理性まで失うとは!』
ダルシュの姿をしたものは、空を見上げながら腹立たしげに吐き捨てた。金色が、異様な色を帯びて不気味に輝いたような気がした。
『私の声も届かぬようでは、もうどうしようもないのだな? よかろう、盟約を破りしものには、力の制裁を――! それが我々の古き定めだ!』
一瞬半透明になっていた翼が、突然広がる。魔力によって作っているソレは、術者が意識するかしないかに激しく左右されるのだ。妖精でもそうであるが、彼らは飛行魔術の補助にそれを使う。つまり、必要のないときなど、意識が他の場所に向いていると、そこに注ぎ込まれる魔力というものが少なくなる。恐らく、彼は同族への怒りのあまりに意識が薄れたのだろう。
その怒りは相当なものだが、何となくまだ状況のつかめないファルケンにとっては、ダルシュの中に何かよくわからないものが入り込んで、意味不明な事を口走っているようにしか見えない。
(……なんだろ、悪霊とか妖魔とかそういう悪いものじゃないようだけど……)
今にも飛び掛かっていきそうなダルシュを止めるべきか考えながら、ファルケンはじっと彼を見た。
「すげえ意味不明なことをぶつぶつ言ってるしな……。やっぱり念のため押さえ込んでおいた方がいいような……何かあったら困るし……」
『何を言っている狼!』
「うわっ! 聞こえてたのか!」
声が聞こえ、ファルケンはびくっと肩をふるわせた。ダルシュはこちらを向いて、その金色の瞳でファルケンを睨んでいる。元がダルシュなので、やはり睨まれるとなかなか恐いものがある。だが、どうにかそれを睨み返すようにして、ファルケンは訊いた。
「だって、あんまり不審にぶつぶつ言ってるから……。一体あんた誰だよ? ダルシュはオレの友達なんだから、何かあったら困るんだ!」
だが、そういわれた途端、ダルシュの中のものは、表情を不快そうにゆがめて反射的に返してくる。
『貴様、私が何であるかわからぬのか! 貴様は私が何者であるかわかっているはずであろうが! 私を悪霊と一緒にするなっ!』
「え、オレ、あんたと会ったことあるの?」
ファルケンは、少し考え、あっと声を上げた。その顔がわずかにほころぶ。
「あっ! もしかしてっ! あ、やっぱりそうなのか? ええと、名前ど忘れしたけど、確か……!」
『今はとかく時間がない! ……竜属は私が何とかするが、司祭は貴様がどうにかするがよい! 放っておくと、あれは暴走するぞ!』
ダルシュに取り憑いたものは、そうきっぱりと言った。ファルケンは深くうなずいた。
「そうか! あんたが助けに来てくれたんだな! よかったあ!」
『時間がない! さっさと行け!』
「サライさんにオレの挨拶きいてたのか? よかった! 噂にきいてただけだから助けてくれるかどうかわかんなかったけど、やっぱりつてを作っておくって大切なんだなあ。昔、レックもそういってたんだー」
のんきにまだ納得したように一人うなずいているファルケンに、そろそろ彼は痺れをきらした。ひくっと唇をひきつらせ、彼は振り返って叫ぶ。
『ええい! 話をきいておらんな! 時間がないといっておるのがわからんのかー!』
「何だよ、長生きなのに気が短いなあ、わかった! あとは全部任せるから!」
ファルケンは、そのぐらいで怒ることないのに、と言いたげな顔をしてそういうと、さっと身を翻した。
「じゃあ、オレは、あいつのところに……!」
『気をつけよ。司祭は、すでにあの男の所にいるぞ!』
「あの男?」
聞き返して、はっとファルケンは表情を引き締めた。それが誰のことをさすのか、瞬時に理解したのだ。
「そうか、狙いはオレだけじゃないのか! わかった! すぐに行って来る!」
『うむ、気をつけろ!』
彼はそう言うと、慌ててすっ飛んでいくファルケンには目もくれずに上を見上げた。いつの間にか、四匹いる竜の内、三匹が彼の上空に集まってきていた。だが、彼らは「彼」に尊敬の念も服従のあかしも見せない。ただ、邪魔者を片づけようと思っているのか、彼に激しい敵意を向けていた。
いにしえの竜の王は、目を細めた。
『同族を手に掛けるのは気が進まぬが、貴様らがそうだというのなら仕方がない。我ら竜と人間と狼の間には、かつて盟約があった……! それを破る者は力の制裁を下す! それが、我らの間でかわされた古い約束だ! 人間共々、貴様らですら忘れてしまった盟約だ!』
少し淋しそうにいって、彼は金色の目を静かに上に向けた。
『私に勝てるとでも思っているのか? 愚かなる者共め! このままでは真の力はだせぬが、……貴様らに、真の支配者たる力の片鱗を見せてくれる!』
そういうと彼は翼を広げた。彼を見つめる竜達は、彼の言葉の意味を知らずか、よりいそうの敵意を滲ませて彼を見る。燃えるような血走った瞳に、かつて彼らが持っていたという人知を越えた深い理性の片鱗は見えなかった。
それは、支配者である蛇の王には、哀しいことでもあった