きつくそういうと、ジャッキールはそっぽを向いて歩き出そうとしたが、ふとレルの方を目の端でみやってびくりとした。
レルが、突然わっと泣き出したのだ。
「う……」
ジャッキールは、泣き出したレルを見て、ぎくりとした。周りでは、去りかけたギャラリーが、女の子を泣かしたジャッキールに非難の目を向け始めている。
「な、な、何も泣くことはないだろう……。わ、悪かった。私が悪かった」
慌ててひざまずいて、どうしたものか、と、ジャッキールは、明らかに狼狽した顔になっていた。
「い、言い方が悪かった。……すまん。悪かった」
ジャッキールは、子供にどう接するか接し方をしらない。泣かれるとどうすればいいかわからないのだ。おろおろしながら、機嫌をうかがってみるが、レルが泣き止む様子はない。
「わ、わかった。驚かせた詫びに、何か好きなものを買ってやろう。……な、何でもいいぞ。何がいい?」
慌ててそういうジャッキールの前で、レルは、突然顔を覆っていた手をぱっとはずして、あどけない顔をのぞかせた。
「ホント? 何でも買ってくれるの? だったら、私、お人形がほしい!」
「な、……何? ないていたのではなかったのか?」
レルは、ばつが悪そうにしながら、それでもにっこりと笑いかけてくる。
「えへへ、おじさん、だって、怖い顔するんだもの」
完全にはめられた形になったジャッキールは、一瞬呆然としたが、そうはいっても先ほど口約束をしてしまったばかりだ。律儀な彼が約束を破るわけもなく、ジャッキールは額を押さえてため息をついた。
「約束は約束だな。……わ、わかった。買ってやる」
「ありがとう、おじさん! やっぱり、思ったとおり、おじさん、優しい人なのね」
「お、俺は……別に……」
ジャッキールは、しどろもどろになりながら、照れて思わず視線を泳がせる。
「おじさん、じゃあ、今日は一日私につきあってね」
「う……」
レルが笑いながらまとわりついてくるのに、困りながらも、ジャッキールは困惑気味に言った。
「お、おじさんではない。俺はジャッキールだ。呼ぶならこれからは名前で呼べ」
そうは見えなかったが、実は結構気にしていたらしい。咳払いしてそういい、慌ててそこを後にする彼を見ながら、シャーとリーフィは顔を見合わせた。
ふと、ジャッキールの背後にぼんやりと白い服に白い肌の女が見えた。黒髪の女はこちらを向くと、にっこり笑い、軽く投げキスをして、ふわりと消えた。
「な、何だ?」
シャーはあわてて目をこする。だが、別にジャッキールが、レルに振り回されて弱りきっている様子しか見えなかった。
「ま、まさか、ね……」
あれだけ不死身なのだから、何か人外が取り憑いていてもおかしくないが――。
「やめとこ。オレは現実しか見ない主義なんだし」
「何か言った?」
「いいや、ちょっと、ね」
シャーは、そうつぶやいて、リーフィと一緒に酒場に戻ることにした。
魔剣呪状・完
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