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魔剣呪状34



 
 久々にすっきりと気分のいい朝だった。
 天井が見えるということは、家の中である。ふかふかというわけではないが、それでも、旅の身の彼には十分な寝床と、どこからか、料理の温かい香りがした。
(宿か……)
 ジャッキールは、ため息をつく。
 昨日は宿に泊まったのだっただろうか。ジャッキールは、額に手をやりながらそんなことを考えたが、ふと、その思考を声が邪魔した。
「あ、目が覚めたかしら」
 女の、どちらかというと冷たい無感動な声が、ジャッキールの目を一気に覚まさせた。がばと起き上がると、そこには、見覚えのある冷たい美人が、首をかしげて立っていた。
 ジャッキールは、慌てるあまり、肩が痛いのも忘れ、即座に起き上がって起立した。
「寝てていいのよ。まだ、頭がふらふらするんじゃないの」
「な、ここは……?」
「私の家だけれど?」
 「私の家」その言葉で、ジャッキールの頭は綺麗にまっしろになる。
「な、な、何故、俺がここに……」
「覚えていないかしら。あの後、あそこでそのまま倒れて、そのまま足掛け二日寝込んでいたんだけど」
「あ、あしかけふつか……? ふ、二日だと!」
「ええ、二日だけれど」
 慌てるジャッキールだが、リーフィは、悪意があるのではないかと思えるほど冷淡である。
「あの後、お医者さまにきてもらったけれど、大丈夫みたいよ。もうちょっと血を流してたら死んでたかもとかいわれたけれど……。腕も動くようになるって……。よかったわね」
 ジャッキールは、不審にあたりを見回す。シャーでもいてくれたら、まだ救いになるのだが、あいにくと姿が見当たらなかった。
「あ、あ、アズラーッドは?」
「え、シャーなら、テルラさんが心配だから見に行っているけれど」
 ということは、リーフィとここで二人きりだ。外はすっかり朝になっている。ジャッキールは、真っ青になった。
(い、いかん……。こんなところを周りの住民が見かけでもしたら……悪いうわさが……うわさが……)
 ジャッキールの頭は、それだけでいっぱいになってしまった。
「さて、朝ごはんにしようかしら。何がいいかしらね?」
 リーフィが、そんなことを言いながら、部屋を覗き込んだとき、すでにジャッキールの姿は見えなかった。
「あら……」
 扉が開く音が聞こえ、リーフィは、窓を開いて外を見る。
「ジャッキールさん?」
 窓から外を見ると、井戸の前の桶に足をとられてひっくり返った後、慌てて立ち上がって走り去っていく黒服の男の姿が見えていた。


 
 ジートリューの屋敷は、王都でもかなり大きいものだ。軍閥であるジートリュー一族は、この国でも軍事力を背景にかなり権力を握っている。ただ、その惣領たるジェアバードが、権力欲のない人間である為に、彼らは権力闘争に直接関わることは少ない。内乱のときも、ジェアバードが、シャルル以外の王子に加担しなかった為、一族はほとんど無傷でいられたという事情もあった。
 そんなジートリュー一族の屋敷の主の部屋に、三人の男が集まっていた。
「将軍、お久しぶりでございます」
 すっかり平伏したメハルが感無量な面持ちでそういう目の前で、赤毛の威厳のある男が、どこか彼に同情したような目をして座っていた。
 ジェアバード=ジートリュー。軍閥ジートリュー一族の惣領でもある、将軍である。
「久しぶりだな。メハル。今回はすまなかった」
 ジートリューは、窓辺で、貴人とは思えぬぞんざいな姿勢で壁にもたれかかっているハダートをにらむように見た。
「ハダートみたいな男に使われて困っただろう。こいつは、人の気持ちなどちっとも考えない男だからな」
「言いたいようにいうじゃねえか、ジェアバード」
 ハダートは苦笑していった。
「お前に言われたくはないがな」
「何を言う。緊急でなければ、貴様に協力などさせんかったのだがな」
 ジートリューは、そういってため息をつく。
「いえ、将軍の命令であれば、どこでもはせ参じます」
「やれやれ、いやに慕われてるじゃねえか」
「貴様、将軍に無礼だぞ! 表に出ろ!」
 メハルが、平伏していた大柄の体をがばっと起き上がらせ、そんなことを言いだすが、ハダートは相変わらず、平気の平左といった様子だ。
「そいつに真剣に構うな。放っておけ、メハル。時間の無駄だ」
「は、申し訳ありません、将軍」
「それより」
 ジートリューは、ある意味自分に似たところのある実直な部下を見やりながら、訊いた。
「それで、街を騒がせていた事件の方はどうなった?」
「は、申し上げます。結局下手人の男は、自殺し、剣は、三白眼のアホの連れの傭兵が折ってしまったとかで……。破片だけわれわれが回収して、結局、元の持ち主である鍛冶屋の下に返したのですが。……まあ、いってみれば、師匠を殺したのが弟子なこともありますし……。正直、こんなうわさめいたものは流布させたくないのですが、刀鍛冶が魔剣に狂わされ、正気を失って師匠を殺してからの凶行である、と周りには伝えております。つまり、剣の呪いだと」
「それは、また、後味の悪い話だがな」
 人のいいジートリューは、少し眉をひそめた。
「ええ、ただ、一人、弟子が残っておりますし、……どちらも死んだことですので、それ以上は……。実際、動機と考えられるものも、果たして表に出していいものかどうかわからない、不可解なものでありますからね。怪談めいた噂を流すのは気が引けますが、そういって片付けた方が、お互いの為だと思うのですよ。……実際、私などは直接関わりあったのですが、そういうところもありましたしね」
 メハルは、そういって少し目を伏せた。
「あと、死んだカディン卿の方ですが、まあ、あっちは相当あこぎなことをやっていたようで、あれは死ななければ貴族審理院に突き出されていましたね。……まあ、そちらは、貴族審理院の連中が調査を続けておりますので、おいおい、将軍の耳にも入るのではないかと」
「なるほど」
 メハルは、深くうなずいた。
「ともあれ、街のものは、一通り落ち着きを取り戻しておりますし、それだけが救いではあります」
「そうか。すまぬな、呼び立てて。また、後日、少々つきあってもらうかもしれんが」
 いえ、と、メハルは生真面目な様子で答える。
「私は、今でも将軍を慕うものでございます。何かありましたら、申し付けてください。それでは、失礼いたします」
 メハルは、大仰なほど丁寧に礼をすると、そのままきびきびした動作で外に出て行った。
「配属がすっかり変わってるのに、まだ慕ってくれてるとはいい部下をもったなあ」
「それを貴様が適当に使おうとするから、元上官の私としては心配でならんのだ」
 ジートリューは、きっとハダートをにらんだ。
「適当とはひどい言い方だな。俺は、アレに頼まれたから、調べていただけで」
「アレ……。そうか、そういえば、さっき、メハルの口から、三白眼のアホとかなんとか聞こえたが」
「ああ、まあ、そういうことだ。ちょいと関わってたんだよねえ、アイツも」
 ハダートが言うので、ジートリューはおおまかに事情を知ったらしい。
「まあ、ソレはともあれ、なにやら、因縁めいた話だな。……結局、剣に狂っての所業ということで片付けたという話だが……」
「まあ、そういう言い方しかできねえだろうしな。正直、理解できねえ蛮行さ。やった奴には、論理が通ってるのかも知れねえが。残った人間の為にも、剣で狂っちまったということにしといた方がいいんじゃないか。……そうでなければ、納得がつかねえというところだろうさ」
「そうなのか? 死んだ人間もいるというのに……ますます後味が悪いな」
「まあ、剣がなくなったというだけましだろうよ」
 ハダートは、難しい顔をしているジートリューにそういい、軽くため息をつき、それにしても、とつぶやいた。
「怖いのは技術屋の執念だな。なんとなく身につまされるところはあるが」
「貴様は職人でもないくせに」
「いいや、策士策におぼれるっていうのもあるだろう。好奇心旺盛なのは、危険な証拠だって話だぜ」
 ハダートはにやりとした。ジェアバード=ジートリューは、まるで本気にとらず、話を変える。
「しかし、そのジャッキールとかいう男、剣を折ったとかいったな。何故だ? 本人を切ってしまえばそれで終わりだろうが。何故わざわざ」
 そういわれて、ハダートは、少し姿勢を変えた。
「ああ、アレは、多分。あいつも、あの剣が恐かったんだろうよ。というより、あいつの場合は、あの剣が恐いというより、あの剣を二人目の人間が使うことが恐かったんだろ」
「何故だ」
「一人目がやったということは、その後の人間も、同じことをやる可能性があるからさ」
 ハダートは、感慨を抱いているのかいないのか、軽い口調でそんなことを言う。
「あの男は、かなりイカレちまってるが、変なところで俺たちよりまともにできてるらしいからな。奴はカタギが不幸になるのが、堪えられねえんだろ。だから、剣を、徹底的に砕いておく必要があったのさ。……奴風に言えば、多分、剣の魂ごと砕く必要が、といった方がいいんじゃないかね。そうじゃなければ、わざわざ、戦いの最中に折るなんて、七面倒なことはしねえだろう。多分、儀式みたいなもんさ」
「その男は、そんなことを信じているのか?」
 馬鹿馬鹿しい、といいたげな口調で、ジートリューはいうが、ハダートは首を振った。
「さあ、俺が知ってるあいつは、それほど夢見がちな人間じゃなかったぜ。……ただ、あの剣は、確かにおかしな剣だったんだろう。なにせ、「アレ」ですら、ちょっと引いてたところがあったからな」  
「ほう。なるほどな」
 そういわれて、ジートリューは、思い出したように聞いた。
「そういえば、で、アレは何を言っているんだ」
「別に。アレからちょっとあってあれこれ聞いただけよ。まあ、相変わらずへらへらしてたようだがな。あれこれあったが、まあ、街に出てる間は、落ち着いているみてえだし」
 ハダートは、肩のカラスをなでやっていった。
「今頃、あの美人にでれでれしてるんじゃねえかな」
 空はいつものように晴れ渡り、強い太陽の光が注いでいる。


「手伝っていただいて……ありがとうございます」
 墓場からの帰り道、ふと、先を歩く男にテルラは声をかける。
 端正だが、どこか甘さのない顔をした男は、ふと振り返り、そこで立ち止まった。
 葬儀の帰り道、もう、ほかのものはすでに帰ってしまった。どこか、寂しげな風の吹く真昼である。目の前にいるのが、ジャッキールというのは、どこかテルラにとっては因果だった。当初、この男を疑ってかかっていたというのに。
「貴様が、気にすることはない。ハルミッドには世話になった。いわば、これは礼だ」
 ジャッキールは、例のように、どこか武官のような口調でそういって、にやりとする。ハルミッドとラタイの葬儀は、ほとんど密葬のようなものだったが、それでも、若いテルラ一人で途方にくれていたところ、あれこれ手配してくれたのは、ふらりと駆けつけてきたジャッキールである。
 最初、疑っていたジャッキールに面倒を見てもらい、テルラはかなり申し訳ない気分になっているのだが、ジャッキールのほうは、気にしていない様子だった。外見にしても、その性格にしても、どこか危なくて恐いところのある彼だが、普段は、意外に気のいいところがあるらしい。
「でも、お怪我のほうは大丈夫ですか?」
 テルラがきくと、ジャッキールは、ああ、と一言つぶやく。まだ、彼は左肩をかばうのに、首から左腕を吊るしていた。
「貴様が気にするほどの大事はない。しばらくすれば、元通り動かせるだろう」
「そうですか……」
 テルラはそういって微笑んだが、少し暗い笑みだった。
「それよりも」
 ジャッキールは、不意に一本の剣を右手にとって差し出してきた。
「これは貴様の作った剣だろう」
 急にテルラが黙り込んだのを確認して、ジャッキールは言った。
「先ほど、捨ててあったのを俺が拾ってきた」
 テルラは何も答えない。ジャッキールは、自分の考えが正しかったことを知る。
「貴様にも嫌な思い出ができてしまっただろうが……。最後にひとつだけ、見ておいてもらいたいものがある」
 ジャッキールはそういって、にやりとした。
「いい物を見せてやろう」
 そういうと、ジャッキールは、一枚薄い紙切れを取り出すと、それをふわりと空中に放り投げた。ふわふわと風のない空中を漂ううちに、ジャッキールは、軽く鞘を捨ててテルラの剣を抜き放つと、ピッと、まるで軽く素振りでもするように一閃した。紙に剣がたたきつけられるように見えたが、多少空中でひきつれただけで、すらりと紙は舞い降りてくる。
 テルラは、最初、ジャッキールが何をするつもりなのか、わからなかったため、ぼんやりとそれを見ていたが、不意にはっとして目を見開く。紙はすでに二つに切れていたのだ。剣は紙を撫でたわけではなく、ちゃんとそれを切断していたのである。
 ひらりと地面に落ちる二枚になった紙切れに、テルラは驚愕した。そういうことが出来る剣がこの世にはあると聞いているが、自分や師匠が作っているアレでは無理だときいていた。もっとも、ハルミッドの作ったものは、西方の剣の作り方と若干違うらしいという話は聞いていたが、それにしても、出来るものではない。
「これは!」
 テルラは、目を丸くして、ジャッキールを見やった。
「こういう剣じゃ、こんなことはなかなかできないはずなのに」
 この男は、一体何なのだろう。恐ろしい腕前だ。テルラは真剣にそう思った。だが、ジャッキールの方はというと、器用に片手で剣を鞘に収めて返しながら、こういうだけである。
「こういう芸当ができるのは、俺の腕というよりは、剣の素質だ。この剣は、なかなかのものだ。もう少し続ければ、貴様はいい鍛冶屋になるかもしれんな」
 テルラは、そんなことをジャッキールの口から聞くと思わず、驚いた顔のまま、彼を見上げていた。
「道を誤っている俺がこういうことをいうのは、笑い種だがな……。力も武器も、すべては使い方ひとつによるものだ。使う側の意思の問題でしかない……。かつて、ハルミッドからザファルバーンより東の村にハルミッドの弟弟子がいるときいた。……やる気があるなら訪ねてみてもよいのではないか」
 ジャッキールは、相変わらず沈んだ様子でいい、突然、少々自嘲的な笑みを浮かべた。しゃべりすぎたと思ったのだろうか。
「それではな、達者で暮らせ」
 ジャッキールは、そういうとすたすたと歩いていく。その方向に王都があるのは、すぐにわかった。テルラは、自分の作った剣を持ったまま、呆然と、その後姿を見送っていた。



 ちょうど昼前の太陽が、まぶしいながらもゆったりと光をおろす。酒場は、事件の間の静けさを取り戻すように昼間から騒がしかった。
「のどかだねえ」
「そうね。のどかね」
 シャーは、舎弟たちが騒いでいるホールから離れて、まだ店にでていないリーフィの控え室でまったりと酒を飲んでいた。もちろん、弟分におごらせた酒である。シャーも、ここのところ、おごられていない分を取り戻すかのように、あちこちに無理をいって泣きついておごってもらっているのだった。
 窓から見える青空は、今までの凄惨な空気を吹き飛ばすかのように、少々無理をして青すぎる青を作っているかのようだった。だが、ともあれ、すべては終わったのである。
 リーフィは、例のごとく、あまり愛想のない無表情な顔のまま、シャーの酒と話の相手などをしているが、そこに色気めいたものが全く感じられないので、シャーも、違う意味で安心して飲めるところがあるらしい。妙に自然体でくつろぎながら、シャーはぼんやりとリーフィと一緒に窓の外を見ながら、そんなことをつぶやいたものである。
 と、急にのどかな風景が翳った。窓の外に人影が見えたのである。
「のどかだねえとは、お前も暇そうだな」
 そう声をかけられ、一瞬でシャーは顔をこわばらせる。
「手前……」
「よう、しけた面してんなァ、相変わらず」
 シャーが二の句を継ぐ前に、さっと入り込んできたのはゼダだ。あの夜から会うのは初めてだが、相変わらず派手な上着を羽織ってうろついているらしい。シャーと会うときは、性格を繕おうともしないので、すでに顔には例の、含み笑いが張り付いていた。 
「ふん、日の高いうちから派手な格好しやがって! ……害獣がうろつくには早すぎるんじゃねえの、ネズ公」
 シャーは、皮肉っぽくそんなことを言うが、ゼダは平気そうににやりとする。
「朝っぱらから、酒場にいりびたりのだめ男にいわれたくねえ台詞だな」
「何だあ、やる気か、テメー。表、いや、裏に出たら徹底的に今日こそ勝負を……」
 時々妙に血の気が多くなるらしいシャーは、思わず右手を刀の柄にかける。
「あら、あなたたち、本当に相変わらずね」
 リーフィが、ふらりと現れてそんなことをいったので、シャーはひとまず柄に手を置いたまま、ゼダをにらんだ。
「何の用だよ、ネズミ」
「いいや、別に。とおりすがったからよってみたんだがな。ほれ、この前、連続で上着をなくしちまったからなあ、新しく仕立ててたのができあがったから、取りにきたのさ」
 ゼダは、そういって肩に羽織っている派手な上着をちらつかせる。
「へ〜……。仕立て直すねえ、いい身分だことで」
「一回目はともかく、二回目は、テメーのせいなんだがな。弁償してくれるとかねえのかい?」
 ひくりと、すでに唇が引きつっているシャーに、ゼダはにやにやしている。シャーも、ゼダの前では、普段はうまく隠している感情が押さえきれないらしい。
「自分で奴さんに引っ掛けたんだろ。それに、オレはお前と違って、そんなど派手でセンスのない服についやす無駄金ありませんもんねー」
「てめえも目の覚めるような派手な青着てるくせに。まあ、みすぼらしいけどよ」
 たっぷり皮肉を込めてそういって、ゼダは、わざと大声になった。
「ああ、でも、そりゃそうだよなあ。お前には、こういうのを着こなすセンスってもんがねえもんなあ!」
「な、何だと!」
 思わず、シャーが剣を鞘走らせるが、ネズミは、さらりと後退し、にんまりと笑った。
「おいおい、図星かよ。まあ、お前さんをからかっても面白くねえし、今日はこれぐらいにしとこうかな」
「……てめえ、絶対、そのうち叩き斬ってやるからな!」
 シャーの呪いの言葉もそこそこに、ゼダは、ふとリーフィのほうを見た。
「ちょいと聞きたいんだが、お前さん、この前の夜、女を助けなかったかい?」
「この前、いつ?」
 リーフィは、思い当たることがあるのか、少し気がかりな顔になったが、ゼダは、いいや、と首を振る。
「まあ、いいのさ。……そういう女がいたんで、礼を返してくれといわれただけよ。ま、……そのうちな」
 ゼダは、からりと笑うと、シャーにもう一度視線を送る。相当不機嫌らしい彼は、三白眼で、じとりとゼダをにらんでいた。
「おめえさん、目つき悪いよなあ。凶相とかよく言われるだろ」
「や、やかましい! オレだってちょっとは気にしてるんだよ! というか、貴様みたいな奴がいるから、ますます人相が悪く……! 大体なあ、てめえも、人のこと言えた……」
「あー、わかったわかった。まあ、図星ということだな。それじゃあな〜!」
 いきり立つシャーを軽くいなして、ゼダはふらりと身を翻す。後ろで、シャーがなにやらわめいているのが聞こえたが、ゼダは無視して、上着を翻していってしまった。




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このページにしおりを挟む 背景:空色地図 -Sorairo no Chizu-様からお借りしました。