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リーフィのとある一日-7

  *

 あの紙切れに書かれていた場所に向かって歩いていると、不意に夜道に人影が出てきたものだから、少し私も驚いた。
 指定された時間が遅かったものだから、すでにあたりは暗くなっていて、しかも指定された場所が場所。それもそうね。犯罪行為をするというのに、指定場所にわざわざ人通りが多い場所を選ぶものもいないでしょう。
 けれど、そういうところで黒ずくめの人が急にでてくると思わずどきりとするものね。それに、相手が相手だったし。
 ジャッキールという人は、いつだってこんな風にどこか人を近づけさせない妙な殺気をまとわせて歩いている。それに元から長身だし、おそらく異国から流れてきたのだろう容貌を持ち、発音にわずかに癖のある彼は、良くも悪くも目立つ部分があるの。
 彼自身それがわかっているから、敢えて人のいない道を選んで歩いているのでしょう。彼は案外繊細なところがあって、人通りの多い道で、周りの人間に避けられるのに、かすかに傷ついているのだと思うわ。
 広い王都でなにもゼダやジャッキールといったおなじみの面々と、偶然会わなくてもいいような気がするのだけれど、多分よく顔を合わせるのは、なんだかんだいって私たちの行動範囲や行動時間が妙に似ているということなのでしょう。シャーに言わせれば、腐れ縁だというでしょうけれどね。
「貴様が物欲しそうな顔して歩いていたのは、どうせ塩泥棒の話だろう」
 ジャッキールは単刀直入にそう聞いた。
「なあんだ、旦那。やっぱり、知ってたわけ?」
 シャーは、どうもかまをかけたみたい。
「この先の道で塩泥棒がさあ、ひとしごとやるっていうから、オレ達みにきてみたのよ? なに? 旦那も参加予定?」
「断った仕事の話だ。俺が今日このあたりに歩いてきたのは偶然に過ぎない」
「何さ、また夜の散歩ですか?」
「別にいいだろう。散歩ぐらい」
 ジャッキールは、鬱陶しそうに答える。
「それよりも、塩泥棒の話が聞きたいのだろう?」
「おお、そうでしたそうでした。忘れるとこだったよ!」
 シャーは、わざとらしくはしゃいだように言う。ジャッキールは、とても危うい雰囲気の人だけれど、実は生真面目なものだから、多分シャーにとってはからかうと凄く楽しい相手なのだわね。
「連中なら、貴様の情報どおり、この先で仕事中だ。まあ、貴様には遊び程度の相手だろうが、一応気をつけていったほうがいいぞ」
「そりゃあね。一応女の子同伴できてますんで、その辺は、注意はするつもりよ?」
 シャーは軽口を叩きながらも、少し嬉しそうに見えた。
 この辺の表情は、普段はあまり見ることは出来ないわ。何か獲物で遊びだした猫みたいに、ちょっと残酷で野性的でいかにも楽しそうな顔ね。私は何度か見たことがあるけれど、普段のシャーからは想像もできない表情になると思う。
「それじゃあ、リーフィちゃん、気をつけていこうか?」
 シャーは、私にそういうと、ジャッキールに「それじゃ、またね」と軽く手を振る。私は、ええ、と答えてジャッキールの方を向いた。
「それじゃあ、ジャッキールさんも、またお店にきてね」
「あ、ああ」
 彼はそういって目を伏せた。ちょうど灯りを浴びて、ジャッキールの青白い顔がよく見えたものだから。一瞬、私はじっと彼の方を見ていたわ。
「な、何か?」
 気がついたジャッキールが、きょとんと私を見る。
「いいえ。なんでもないの」
 私は慌てて首を振った。人をじっとみてしまうのは私の癖なのだけれど。
 こういうの目の保養っていうのかしら。
 ジャッキールは、意外と睫が長くて、涼しげな目元をしている。目を伏せたものだから、まつげの長いのがよく見えてなんだか少しどきりとしてしまったわ。
 彼は、普段は特にそうも思わないのだけれど、基本的に顔のつくりが綺麗だから、時々、ふっと、ああ、この人美男子なのねと思うことがあって、時々眺めていると静かに楽しい時があるの。なんだかんだいって、綺麗な人をみるのは、その人の男女を問わず楽しいものだものね。
 もっとも、凄く勿体ないことに、普段は何か危ない感じだったり、陰気だったり、人を寄せ付けない感じなので、彼がこういう綺麗な顔をしていることを知る人は少ない。もったいないわね。私も、お仕事の上で、男女問わず綺麗な人をよくみかけたものだけれど、彼だってその中でもかなり綺麗な顔をしているというのに。何故かしらね。一目では強面という印象が強くて、なかなかそうは見えないわ。もう少し二枚目ぶったらよいのかしら。
 一言で言うと、色々残念なのね。




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