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18.がっかり
「ヨーグルトのある生活 」
レックハルドは、チーズが好きだ。ヨーグルトも好きだし、バターも好きらしい。
嗜好は人それぞれなので、ファルケンも特に口出しする気はないのだが、ファルケンとしては、肉にはどちらかというとヨーグルトをかけないほうが好きなので、いつのまにかかけられていると、少し困ってしまうのだった。しかも、これがたまになら変化があっていいのだが、レックハルドの場合は毎回なので、ファルケンは余計に困る。
「……あのさ……そんなにコレ好き?」
「あ〜? なんだ、文句でもあるのか?」
「いやっ、そういうわけでは……」
どうも好意でやってくれているらしいので、さすがにむげにも断れず、ファルケンは慌ててごまかした。さすがにストレートに「嫌い」などと言える状況でもない。そんなわけで、ファルケンは、珍しく頭をつかって回りくどい方法を使うのである。
「レ、レックは、ヨーグルトが本当に好きなんだよな?」
「そうだなあ。ま、ガキのころはこれが主食みたいなもんだったからよ」
「そっか。……なるほど」
ここから、どうにかして、ヨーグルトをあまりかけないで肉が食べたい話に持っていけばいい。ファルケンは、ええっと、と詰まりながら話を続ける。
「でも、ほら、子供の頃食べてるのって、結構好き嫌いとか残ることもあるよな」
これで、うまく肉はそのまま、を伝えられたら上々だ。ファルケンは、レックハルドの回答に期待したが、ふとレックハルドはため息混じりに皿に目を落とす。
「そうか、そういや、昔は上等なもんは食えなかったからな。今くってるのは、前よりうまいから癖になるんだよな」
(あれ……なんか悪い話をきいてしまったような……)
ファルケンは、思わず顔色を変える。
(ど、どうしよう。……こんな話きいて、本当はオレ、ヨーグルトかけない方が好きなんて言えない……)
苦笑いのファルケンに、レックハルドは怪訝そうな視線を向ける。
「どうした? なんか言いかけたよな?」
「あ、いや、何でもないんだよ! これ、本当にうまいよな」
そういって料理をむさぼるファルケンに、もうそれ以上の策はないのだった。
墓穴を完全に掘りながら、ファルケンの今日の食事はくれてゆく。そうやって、ファルケンは、今日も「ヨーグルトはできるだけかけないようにしてくれよ」と言えないままに終わるのであった。
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