絶望要塞(改訂版)・幻想の冒険者達/©渡来亜輝彦2005
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プロローグ


 ランテラス王国、ラファンドラ要塞のウィンディオ=ファンドラッド将軍が服毒自殺をしたのは、真冬の一月の寒い日であった。将軍は、自室で毒を溶かしこんだ酒をあおり、人知れず、死んだ。そして、その一週間後、夜襲にあったラファンドラ要塞は、炎に包まれて陥落した…。将軍が自殺した日、それは王国暦398年、王国の暦にして霜鋭月15日のことである…。

 
 ラファンドラ要塞、それはランテラス王国の要衝である。宿敵の隣国エヴェドーラ王国からの攻撃を防ぐために作られた、最新鋭でこの大陸最大級の要塞がこのラファンドラ要塞だった。五十数年にもわたる戦争の中、軍事力的に圧倒的に勝るエヴェドーラ王国の攻撃を防いで突破させなかった。
 だが、その戦況が変わったのはランテラス王国の内部で政治的な抗争が始まってからだった。ちょうど、名将と歌われたファンドラッド将軍が赴任していたころ、ファンドラッド将軍が国に返り咲いたときの功績を心配した一部の官僚達が、彼への食糧と武器の輸送を事故を装い停止した。善戦していたファンドラッド将軍も、さすがに味方からの攻撃を受けるとは思わなかった。彼は抗議文を何度も中央に送ったが、それは上層部に届く前に切り捨てられた。
 とうとう兵糧が尽きたファンドラッド将軍は、自ら出向いて近くの町や村から食料を集め始めた。それでは足らず、敵の食糧倉庫を襲い、食料をかき集めたがそれでも不十分だった。兵士達の配給は減り、士気はがたがたに落ちた。
 脱走兵が増え始めたのもその頃である。もとより温厚で知られていたファンドラッド将軍は、仕方がなく、脱走兵に厳罰をもって対応するようになり、管理を徹底した。
 エヴェドーラの将軍もこの事実に気づき、またとないチャンスとばかりに総攻撃を賭け始めた。
 ファンドラッド将軍は、中央に援軍を求めたが、援護などくるはずもなかった。要塞に閉じ込められた兵士達は、どこにいくこともできず、ただ迫る敵兵と尽きる食料への恐怖に怯えるばかりであった。
 だから周りの人々は口々に言い合った。ここは絶望要塞、地獄の底だ。と。ラファンドラ要塞、ここが絶望要塞と呼ばれ始めたのは、それからだといわれている。


 今となっては近隣の住民はおろか、旅人までがこの要塞を避けて通る。死んだファンドラッド将軍の怨念を恐れるように、その怨嗟の声をきかないように耳をふさいで通る。
 焼け落ちたブロックの古い建物、血のような赤い旗。

  それはラファンドラ要塞、人呼んで絶望要塞…。





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背景:NOION様からお借りしました。








©akihiko wataragi