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リーフィなので

 相変わらず、太陽のぎらつく昼下がり。シャーは、今日も日陰になった道をふらふら歩きながら、リーフィのいる店を目指していた。
 リーフィが働いている店は、相変わらず場末な感じの店なのだが、彼女がとびきりの美人なこともあるのか、そこそこ人の入りはいいほうかもしれない。これで、もうちょっとリーフィの愛想がよかったらいいのかもしれないが、無表情なところがリーフィのいいところな気がするので、シャー個人としては、リーフィには今のまま変わってほしくないような気もしていた。
 まあ、リーフィと話していると、時々、男友達と話しているような気分になることもなきにしもあらずなので、シャーとしてはちょっと悲しいところもあるのだが。

 はたして、リーフィの店についたシャーは、いつものように、またふらふらっと店の中に転がりこむのである。
 店内はにぎやかで、舎弟たちがいたりして、割とわいわいやっているのだが、今日はなにやら様子がおかしい。シャーがいぶかしげな顔になりながら、中にはいると、いきなりリーフィと目が合う。
「うおっ、な、何、何なの!」
「いらっしゃいシャー」
 言葉遣いはぜんぜん変わらないのだが、その日のリーフィは、恐ろしく派手な格好をしていたのだ。いや、別に、彼女が派手な服装をするのがいけないわけでもない。実際、リーフィと行動しているうちに、何度か彼女が派手な格好をしているのも見たことがある。踊り子の格好もあったし、妓女の服装だってしたこともあるのだ。だが、なんというか、その時とは質が違う気がした。
 なにせ、リーフィは、真っ赤な服に身を包み、なにやら妖しげな様子で立っているのである。今まで華やかな服装をしていても、何となくそこにはリーフィの彼女らしい趣味みたいなものが感じられて、さほど派手に感じなかったものだが、正直、一歩間違えればけばけばしいと感じるぐらいである。
 おまけに、一番シャーがおびえたのは、リーフィが、リーフィなのに、にやりと笑っていたからだ。
「ど、ど、どうしたの?」
「どうしたのもなにもないわ」
 挑発的な笑みはそのままに、彼女は赤い唇を開く。もともと、リーフィは美人なので、そういう表情が似合わないではないのだが、見慣れないそれは、シャーにとっては遠いものだった。
「私、本当の自分に目覚めたの」
「め、目覚めなくてもいいと思うよ」
 咄嗟に答えてしまったが、リーフィは別に動揺した様子もない。
「ねえ、シャー、あなた、もしかして、本当はお金持ちなんじゃないの?」
「何を根拠に。……っていうか、そうであっても、お金払えないと思うよ」
 もし自由に金がつかえるなら、それこそ、あのネズミみたいな生活ができるわけで。そう心の中で呟くシャーに、リーフィは負けずと食い下がる。
「そう、でも、どちらでもいいわ。……私、あなたに助けてもらったけれど、その辺りも、もうチャラになっているわよね?」
「ええ、ど、どういうこと? そりゃ、お酒もらったりはしましたけれども」
 思わず、腰が引けてしまうシャーに、リーフィはにっと妙に妖艶な笑みを浮かべる。
「じゃあ、問題ないわね」
「何の問題ですか?」
「今までと同じように付き合いたいなら、シャー……」
 流し目をくれられて、シャーは、びくりとする。リーフィはそのまま、或いは高飛車な様子で言い切った。
「……シャー、私に有り金全部貢ぎなさい」





「……どうしたの、シャー」
 きかれて、シャーは、ハッと顔をあげた。目の前にいるリーフィをみやる。相変わらず、無表情な顔つきに、自分でつくろったらしい刺繍の入った衣装を着たリーフィが、小首をかしげていた。酒をついだほうがいいのか、という様子なので、慌ててシャーは空になっていたグラスを差し出す。
「いや、今朝、ものっすごく夢見が悪かったものだからさあ」
 あの悪女なリーフィは、一体どういう発想から生まれたのだろう。シャーは、本人を目の前に少々悩む。
「まあ、それは大変ね」
「ま、まあねえ」
 まさか、夢の中でリーフィが女王様と化していた、みたいなことは言えない。とはいえ、なにやらあの夢を思い出すと、無駄に不安になるシャーなのだ。じっとリーフィをみていたのがわかったのか、彼女はきょとんとした。
「私の顔になにかついているの?」
「ああ、いやっ、そうじゃないのよ、そうじゃ」
 シャーは、深々とため息をついた。
「あの、変なこときくけど、リーフィちゃんって、オレが、明日いきなりお金持ちになったりしたら、どうするほう?」
「どうするって? ……そうね。あなたにお金があったら、こんな酒場には来てくれないんじゃないかしら。そうなったら寂しいけれど、仕方ないわね」
「そ、そう。いや、リーフィちゃんがいる限り、オレは、どうなってもここに来ると思うけどさ」
 慌ててそういいながら、シャーはもう一度確かめるように言ってみる。
「リーフィちゃんは、でも、リーフィちゃんのままがいいと思うんだよね」
「私は多分このままだと思うけれど」
 そういって、ちょっとだけ微笑むリーフィは、やっぱりリーフィらしくていいと思う。
「そ、そう。それはよかった」
 どこかほっとするシャーは、今朝の夢を忘れて酒に舌鼓を打つのであった。なんとなく、さらっとしすぎているけれど、リーフィはリーフィのままが一番いい。




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