たまには一緒に
誰にでも、苦手なものはある。
「リーフィちゃーん」
大変にききなれた軽い声が聞こえ、リーフィは振り返った。相変わらずな様子でシャーがこちらに走り寄ってくる。昼間からふらついているところをみると、よほど暇なのか、それとも舎弟がつかまらないのだろうか。
「今日も酒場に出るんでしょ? 今日は、オレリーフィちゃんとこの酒場に現れようと思うんだよね」
「あら、ありがとう」
リーフィは相変わらず表情が薄い。それでも、わずかに微笑んでもらえるシャーは、特権階級なほうなのだ。
「今日は、ちょっと張り切って遊ぼうと思ってさあ」
「あなたのお金じゃないでしょう?」
「いや〜、それ言われるととっても胸がいたいなあ」
本当に胸を痛めているのかどうかはよくわからない。だが、リーフィは、別に彼を責めたりしないのだった。以前の彼女なら、軽蔑したかもしれないのだが、今のリーフィは何だかんだいってシャーのことを、それなりには理解しているつもりなのである。彼は、彼なりに考えるところがあるのだろう。
「たまには、リーフィちゃんと一緒に踊ったり歌ったりしたいわけなのよ」
猫なで声で、シャーはそういった。
「どう? たまには」
”たまに”という言葉に格別にアクセントを置いてしまいあたり、結構シャーも遠慮しているつもりなのである。リーフィは、ええ、と答えたものの、ちょっとだけためらった様子を見せる。じっと見られ、シャーは慌てた。
「えっ、今のオレ、ちょっとなれなれしすぎた?」
シャーはいきなり心配になったらしく、居住まいを反射的に正した。
「いいえ、そうじゃないんだけれども」
「えっ……でも……」
「ちょっと疑問に思ったのだけど、シャー、あなた、踊りはうまいと思うのよ。でも……」
リーフィは、酒場の帰りにシャーが、何事かを時々口ずさんで帰っているのを知っている。その音階から考えると、酒場で歌われると実は――。
「歌は、歌えるの?」
その夜、酒場にリーフィが現れるまで、舎弟たちは歌の練習につきあわされたらしいが、その後、シャーがリーフィと歌を歌えたかどうかはよくわからない。