辺境遊戯・幻想の冒険者達/©渡来亜輝彦2005


  
 

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注:第一部後半のネタバレがあります。

3.切ない
「さまよい歩く夜には」

 はっきり言っておくが、オレには自信があったんだ。
お前なんかが助けなくても、たとえどっかに売られてたとしても、オレはオレの力でなんとかやっていけただろうさ。…オレにはそれだけの力があるからさ。…ちょっと予定が変わるだけだったんだ。
 なのに、お前はなんなんだよ。…オレの人生を全部狂わせやがって! お前がいなければ、オレはあんなへまをしなかった。お前がいなければ、オレは辛い思いなんかしなかった。
 お前がもっと嫌な奴なら、オレはあのままで生きられたんだ。
 ああ、お前みたいな奴なんか、旅に誘わなければよかった。…途中で予定通り、金だけ盗んで逃げればよかったよ。
 


 ああ、違う。そうじゃない。そうじゃない。

 …オレがお前に助けを求めたりしなければ、よかったんだ……
 




 歩き続けていたのか、ふと我に帰ると、足元で砂がざくざくと音を立てた。いつの間にか夜になっていた。歩きすぎて、時間の感覚が分からない。
 砂は終わらない後悔のように尽きない。夜の砂漠は、奈落の底へと誘う魔の海のようで、その寒さと同時に底知れぬ不気味さが肌を伝う。
「考えると後悔ばかりなんてな。砂漠がこんなに恐くなったのは、久しぶりだ。」
 レックハルドは、白い息を吐き、痛む足をひきずった。
「わかってるんだよ。…悪いことばかりじゃなかったってさ。辛い事があったからって、全部否定するのは間違いだ。でも、やってられなくなるんだよ。…オレの性格はわかってるんだろ…」
 レックハルドは、空を見上げた。満天の星空が広がっているのはわかっている。そんなものを見ても、どうしようもないこともわかっている。星に願いをかける性分でもなく、神に祈りをささげる性格でもない。すがるものは何もない。彼が頼りにするのは、ただ一つ、自分の可能性だけしかなく、それを信じるしかない。
「なあ、ファルケン…。お前は、どっかでオレを見てるのか? だったら答えてくれよ。」
 人の魂は星になったり、鳥になったりするという。あいつには何がふさわしいのだろうと思いながら、レックハルドは漠然と空の星から、それを探そうとしていた。
「なあ、また一緒に旅をしよう…。世界の果てまで一緒に行こうぜ…。」
 それは、寧ろ、むなしい願いだ。助けを求めるのと変わらない。
「なあ、オレを導いてくれよ…。このままじゃ、ここで迷って死んじまうよ……」
 レックハルドは、ボソリといった。返事は返ってくるはずもなく、星空も反応らしい反応は示さない。
 いいや、わかっていたことだ。
 レックハルドはため息をつき、目を伏せる。
  何を期待していたのだろう。
   大体、彼を殺したも同然の自分に助けを求める権利などもうないに決まっているのに。
「ああ、…そろそろ砂漠にやられてきたのかなあ…」
 彼はわずかに薄い笑みを浮かべる。
「…オレも大概馬鹿だよな……。死んだ奴は、答えたりしないんだよ……わかってるじゃねえか。」
 はらりと涙が落ちたのは、誰もきっと気づかない。彼は空虚な笑みを浮かべたままで、やがて星を追うのもやめた。右手の守護輪が何かに当たって甲高い寂しい音を立てた。

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©akihiko wataragi