辺境遊戯・幻想の冒険者達/©渡来亜輝彦2004
  

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「昼下がりの贅沢」

頭上でさらさらと葉擦れの音が聞こえていた。木漏れ日が優しく降り注ぐ昼下がり。眠るには余りにもちょうどいい気候だ。
 草の匂いが鼻をなでていくのを覚えながら、レックハルドは大あくびをした。街道筋の大きな木の下で休みながら、あまりにその木陰の居心地がよすぎて、もう睡魔に勝てそうにない。
「でも…オレ、考えたんだけどさあ……。やっぱし、夜通し荷物運びってそもそも無茶だったんだよなぁ……。」
少し離れたところでで同じように寝転がったファルケンが眠そうな声で言った。
「仕方ないだろ…。オレも嫌だったけど、即金だぞ、即金…。オレが受けなきゃ誰が受けるんだよお……。商人魂がすたるってもんだろォ…。」
 あまり元気のない声で、しかし、できるだけ明るくレックハルドはそういって、財布の中から札を何枚か取り出して見せびらかした。だが、まぶたが既に半分下がっている状態のファルケンがそれを見たかどうか定かではない。レックハルドも、目が赤くなっていて、徹夜のダメージが二人のその身に深く刻み込まれている事でだけは確かである。
「これだけを一晩で儲けたんだ……。あんなチャンスはなかなかないぜ……。」
「そんなこといって、荷物持つの大体オレだしなあ。」
「そういう話だったろ。大体オレだって二つぐらい持ってたし、地図みて道を確認してたのもオレだ。まあ、お互い様ってところじゃねえかよぉ…。」
「…まあ、そうなんだけどなあ…。だめだ、もう限界だ…睡魔が……」
 ふああ、とファルケンはあくびをした。
「だから、ここでしばらく昼寝する事に決定したんだろ。」
「でも、ここ気候よすぎるよな。…ずーっと寝られそうだよなあ。」
「ずーっと寝たら困るだろうが。夕方までにはでなきゃならねえんだぜ。まあさ、…気持ちはわかるけどな。」
 レックハルドはつけかけの帳簿を横に投げ置いた。ぼんやりしている視界に、大きな木の葉の間から見える青い空が綺麗に思えた。
 すでに半分眠りの世界に入っているらしいファルケンが、いっそうっとりしたような口調でぽつりといったのが耳に入る。
「こういうのってさあ、俗にいう贅沢ってやつなのかなあ。」
「ばーか野郎が…。贅沢ってのは、金を使うことを言うんだ。」
 レックハルドは夢も希望も風流もないことを言ったが、きっとファルケンは聞いていないだろう。彼もそれを気にすることなく、両手を頭の後ろで組んだ。
 どこかから鳥の声が聞こえてくる。そのまま眠気に身をゆだねながら、何となく今日はマリスが出てくるいい夢でも見られそうな気がした。

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©akihiko wataragi